真実を映す鏡 5
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―白哉視点―
「隊長!!」
「来るな!!」
白哉は珍しく声を荒げた。
卍解を奪われた際に紫乃の霊圧を感じた。その事実が白哉の心を落ち着かなくさせる。
逸 るな……。
「能力の知れぬ敵に一度にかかるのは愚策……。兄は私の戦いを見て……奴の能力を見極めろ…………!」
「だ……だったら俺が先手をやります!!」
恋次の何も考えていない、体が先に出る性格に、白哉はほんの少し安堵した。いつもの調子が戻ってくる。
白哉は視線だけを恋次へ向けた。
「兄に……奴の能力 の底まで曝け出させる知恵があるとは思えぬ……」
「う……。そんなことは……。……そうっすかね……」
「……じきに奴の底を引きずり出す。今暫くそこで見ていろ……」
だが。
……妙だ――――……。
指がこぎざみに震えていた。
先程からやけにルキアと紫乃の姿が脳裏にチラつく。加えて。
何だ、この、手足の凍る様な感覚は――……?
白哉は相手を観察する。エス・ノトは光の棘のようなものを操っている。
あれに毒の様なものでも仕込まれているのか……!?
「気が憑イテる? “毒カモ知レナイ”ト思ッタね? 違ウよ。此ハキッと、君ガ遥カ昔ニ失クシテ死マッタ物だ」
こやつの言葉に耳を傾けてはいけない――――。そう本能が警鐘を鳴らしているのに、耳が敵の言葉を捉えてしまう。
「隊長ニナッて、強クナッて、敵ヲ圧倒シテ倒ス様ニナッて。長ラク忘レテイタ感覚ダロう? 人ノ生キル上で最モ重大ナ感覚ノ名は“恐怖”だ」
ストン、と腑に落ちてしまった。
そしてその事実に一気に視界が黒くなった。
「流石隊長、良ク耐エた。僕ノ矢ニ撃タレタ者ハ、アラユルモノガ恐怖ニ変ワる。今、敵ヘ一歩踏ミ出スト何カガ起キルンジャナイか。刀ニ手ヲカケタら、引キ抜イタら。振リ上ゲタら、振リ下シタら。何カラ何迄、疑心暗鬼」
……聞くな。
ふいに刀を握る手が緩んでいるのに気づき、白哉はグッと握り直した。
「ダガお前ハソレを意志ノ力ダケデ良ク耐エテイる。驚異だ」
白哉は刀を構え、敵へと向かって行く。
敵に耳を貸してはならぬ…………。
「ダガソレハ只ノ驚異。オ前ノ心ノ芯ハ既ニ」
白哉はエス・ノトの言葉を待たず、刀を横に振るった。
「僕ヘノ恐怖ニ取リ憑カレテヰる」
――――恐怖だと?
白哉は眉をしかめながら、エス・ノトの暗い目を覗き込む。
下らぬ。恐怖の存在しない戦いなど無い。そんなものは幾度と無く乗り越えてきた。
相手の暗い目の中に、見知った二人の後ろ姿が見える。
恐怖を抑え込んだ事など無い。戦いの恐怖を受け容れ、それを叩き伏せて進む力を手にしてきたのだ。
ルキアと紫乃がこちらを振り向いて、微笑んだ。
恐怖など。
――――白哉、恐がってるの?
いつか聞いた紫乃の声がはっきりと聞こえた。その瞬間……。
愛しい二人の顔が一瞬にして腐る。
「……っ」
ほんのわずか、目を見開いた。気がついた時には敵の白く細長い手が、白哉の体を貫いていた。
呆然としたまま、ごぼっと口から血を流す。足が一ミリも動かなかった。
「恐怖ハ経験デ乗リ越エラレル。戦イニ慣レタ強者程、ソウ錯覚スル。――“理由ノ在ル恐怖”ハ優シイ」
……頭が働かない。体が……動かない。
焦る。ナニに。恐怖ニ。
「“真の恐怖”ニハ理由ガ無イ。其レハ感情デハ無ク本能ダカラだ。真の恐怖トハ理由 モ無ク際限モ無ク、只々体ヲ這イ上ル、夥 シイ羽虫ノ様ナモノ」
足先にナニカが纏 わりつく。いや、羽虫だ。
「吾々ハ本能カラハ逃レラレナヰ」
羽虫が一気に体を覆いつくす。羽虫の細い足が首をつたい、顎をつたい、唇へつたう。
いや、違う。これは羽虫ではない。――――恐怖ソノモノダ。
「ぉぉぉぉおおおオオオオオオオオオ」
気がつけば自身でも聞いたことのない雄叫びを上げていた。感情のままに刀を横に振り抜く。
エス・ノトは攻撃を易々と避けると、丸型の金属板を取り出した。
これは…………。
思考がまとまらないまま、無数の桜の花びらに。無数の刃に囲まれる。
卍解、千本桜景義――――。
無数の刃が白哉を襲う。なすすべもなく、膝をついた。
この霊圧は紛れもなく自分自身の。そしてやはり――――。紫乃の霊圧だ。
「隊長!!」
「来るな!!」
白哉は珍しく声を荒げた。
卍解を奪われた際に紫乃の霊圧を感じた。その事実が白哉の心を落ち着かなくさせる。
「能力の知れぬ敵に一度にかかるのは愚策……。兄は私の戦いを見て……奴の能力を見極めろ…………!」
「だ……だったら俺が先手をやります!!」
恋次の何も考えていない、体が先に出る性格に、白哉はほんの少し安堵した。いつもの調子が戻ってくる。
白哉は視線だけを恋次へ向けた。
「兄に……奴の
「う……。そんなことは……。……そうっすかね……」
「……じきに奴の底を引きずり出す。今暫くそこで見ていろ……」
だが。
……妙だ――――……。
指がこぎざみに震えていた。
先程からやけにルキアと紫乃の姿が脳裏にチラつく。加えて。
何だ、この、手足の凍る様な感覚は――……?
白哉は相手を観察する。エス・ノトは光の棘のようなものを操っている。
あれに毒の様なものでも仕込まれているのか……!?
「気が憑イテる? “毒カモ知レナイ”ト思ッタね? 違ウよ。此ハキッと、君ガ遥カ昔ニ失クシテ死マッタ物だ」
こやつの言葉に耳を傾けてはいけない――――。そう本能が警鐘を鳴らしているのに、耳が敵の言葉を捉えてしまう。
「隊長ニナッて、強クナッて、敵ヲ圧倒シテ倒ス様ニナッて。長ラク忘レテイタ感覚ダロう? 人ノ生キル上で最モ重大ナ感覚ノ名は“恐怖”だ」
ストン、と腑に落ちてしまった。
そしてその事実に一気に視界が黒くなった。
「流石隊長、良ク耐エた。僕ノ矢ニ撃タレタ者ハ、アラユルモノガ恐怖ニ変ワる。今、敵ヘ一歩踏ミ出スト何カガ起キルンジャナイか。刀ニ手ヲカケタら、引キ抜イタら。振リ上ゲタら、振リ下シタら。何カラ何迄、疑心暗鬼」
……聞くな。
ふいに刀を握る手が緩んでいるのに気づき、白哉はグッと握り直した。
「ダガお前ハソレを意志ノ力ダケデ良ク耐エテイる。驚異だ」
白哉は刀を構え、敵へと向かって行く。
敵に耳を貸してはならぬ…………。
「ダガソレハ只ノ驚異。オ前ノ心ノ芯ハ既ニ」
白哉はエス・ノトの言葉を待たず、刀を横に振るった。
「僕ヘノ恐怖ニ取リ憑カレテヰる」
――――恐怖だと?
白哉は眉をしかめながら、エス・ノトの暗い目を覗き込む。
下らぬ。恐怖の存在しない戦いなど無い。そんなものは幾度と無く乗り越えてきた。
相手の暗い目の中に、見知った二人の後ろ姿が見える。
恐怖を抑え込んだ事など無い。戦いの恐怖を受け容れ、それを叩き伏せて進む力を手にしてきたのだ。
ルキアと紫乃がこちらを振り向いて、微笑んだ。
恐怖など。
――――白哉、恐がってるの?
いつか聞いた紫乃の声がはっきりと聞こえた。その瞬間……。
愛しい二人の顔が一瞬にして腐る。
「……っ」
ほんのわずか、目を見開いた。気がついた時には敵の白く細長い手が、白哉の体を貫いていた。
呆然としたまま、ごぼっと口から血を流す。足が一ミリも動かなかった。
「恐怖ハ経験デ乗リ越エラレル。戦イニ慣レタ強者程、ソウ錯覚スル。――“理由ノ在ル恐怖”ハ優シイ」
……頭が働かない。体が……動かない。
焦る。ナニに。恐怖ニ。
「“真の恐怖”ニハ理由ガ無イ。其レハ感情デハ無ク本能ダカラだ。真の恐怖トハ
足先にナニカが
「吾々ハ本能カラハ逃レラレナヰ」
羽虫が一気に体を覆いつくす。羽虫の細い足が首をつたい、顎をつたい、唇へつたう。
いや、違う。これは羽虫ではない。――――恐怖ソノモノダ。
「ぉぉぉぉおおおオオオオオオオオオ」
気がつけば自身でも聞いたことのない雄叫びを上げていた。感情のままに刀を横に振り抜く。
エス・ノトは攻撃を易々と避けると、丸型の金属板を取り出した。
これは…………。
思考がまとまらないまま、無数の桜の花びらに。無数の刃に囲まれる。
卍解、千本桜景義――――。
無数の刃が白哉を襲う。なすすべもなく、膝をついた。
この霊圧は紛れもなく自分自身の。そしてやはり――――。紫乃の霊圧だ。
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