主人と僕の旅路 5 【完結】
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「おっ、いたいた!!! 助けてくれよ~困ってるんだ!!!」
森の中を殺生丸さまと歩いていると、どこぞの村人から声をかけられる。
「……」
殺生丸さまは無視。けれど私はそういうわけにも行かず、足を止めてしまう。
最近こういうのが多くなったなぁ……なんて思っていると「これ、鈴。お主のせいじゃぞ」と邪見に咎められる。
「え? 私?」
「何故だかお主が陰陽師だと、あちこちに知れ渡ってるんじゃ」
「な、なんで!?」
私が戦国時代に戻ってきてから。そんなに変わったことは。――……してるかも。
村人たちの妖怪絡みの困りごとを何かと解決してしまっている。妖怪と仲良く、の夢が叶えられるなら。今のうちから出来ることはやりたいと思って。
そして変わったことといえばもう一つ。九字兼定……。あの刀はもう腰に無い。どうも骨喰いの井戸に落としたようだ。
まぁ、戦国時代に戻ってきたことに後悔はないのだけれど。けど。けどっ。
私は殺生丸さまへと目線を向ける。
殺生丸との距離感は何にも変わっていないような気がする。だって最後のスキンシップといえば、戦国時代に戻ってきてお互いに抱き締め合っただけだし。それから何も変わっていないし。
私の視線に気付いて、殺生丸さまが足を止めてこちらを振り向く。
「好きにしろ」
「え?」
「……あの人間の頼みを引き受けたいんだろう」
「あ、はい」
そんな会話をする私達を見て、村人が「お~~~~。噂通りだぁ~~~」と何故か浮足経っている。
私は首を傾げつつも、村人の話をきちんと聞くことにした。
私は緑色をした大量の蝶の妖怪と向かい合う。
村人から聞いた話ではこの大量の蝶たちが、作物を荒らしていくらしい。
「よしっ」
私は意気込んでから大きく口を開けた。
「そこの蝶の大群、これ以上作物を荒らすのは止めなさい!!!」
その瞬間、蝶が一斉にこちらに向かってきた。私は素早く式神、炎虎を取り出す。
手加減しつつ……手加減しつつ……。
「やつらに火傷を負わせて!」
炎虎が炎を吹く。けれど蝶は灰にならない。上手い具合に軽く焦げ跡だけが残る。
戦国時代に戻ってくるまでの三年間。修行したかいがあった。式神のコントロールはばっちり。陰陽術も前よりパワーアップしている。
これで――。殺生丸さまの隣に立てる。
「これに懲りたらもう」
そこまで言ったところで頭上に大きな影がかかる。
「!」
ハッと空を見上げる。と、一層大きな蝶が羽ばたいていた。大きな蝶はこちらに向かってくる。
「風鳥!!!」
咄嗟に風鳥で風を巻き起こす。狙い通り大きな蝶は強風に煽られてよろめく。
よし、これで。
被害は最小限、と思ったのもつかの間。蝶がよろめいた反動でバランスを崩し、そのままこちらに急降下してくる。
「っ!」
避けきれない!!!
私はギュッと目を閉じた。
「危ない、嬢ちゃん!!!」と村人の声が遠くから聞こえたような気がした。
だが。
………………。
痛みは襲ってこない。
?
私は恐る恐る目を開けた。
「!」
目の前には殺生丸さまの顔。そしてそんな殺生丸さまにお姫様抱っこされている私。と、地面に激突して伸びてしまっている大きな蝶。
どうも私は殺生丸さまに助けられたらしい……。と思考がまとまって。
「ごごごご、ごめんなさい!!!」
私は殺生丸さまに抱きかかえられた状態のまま、頭を何度も下げる。
「……無事ならそれでいい」
殺生丸さまは私を地面に下ろした。私はゆっくりと大きな蝶へと近づく。
気絶はしているものの、死んではいないようだ。
ホッと息を吐いて、村人に向き直る。
「しばらく蝶たちは動けないでしょう。これに懲りて悪さはしないと思います」
「そうかい。いや~助かったよ。それにしても噂通りなんだな~」
「……噂?」
そういえば最初に会った時も「噂」と言っていたような。
私は首を傾げつつ、「あのー。その噂って」と恐る恐る村人に尋ねる。
「ああ。二人のことが噂になっているんだよ」
ん? 二人?
私は殺生丸さまをチラリと見る。
二人って私と殺生丸さまのことだよね。
「その噂っていうのが。美人な陰陽師の娘さんが、偉く強い妖怪を僕 にして人助けをしてまわっているとか。しかもその僕の妖怪は、主人である陰陽師の娘さんを溺愛しているって」
僕? 殺生丸さまが? 私が僕じゃなくて? しかも溺愛? え? どういうこと?
私が顔を真っ赤にして「違いますっ!」と答えたのは、考えがまとまった後だった。
―――――――
「いや、ここからが大切でね。そのお母さん、狐だったわけだけど。とにかく正体を明かされた狐と、正体を明かしてしまった犬は仲が悪くなってしまうんだ」
『日本霊異記』の中の「狐を妻として子を生ましめし縁」という話をまだ幼い娘に話す。娘にはまだ難しい話かと思ったが、興味津々に聞いているのを見て再び口を開く。
「でもね、狐と犬はある時を境に仲良くなるんだ」
娘があらかさまにほっとしたのを見て、父親である私は笑った。
「そのある時とは……ていうのも語りたいけど、今日はここまで。もう寝る時間だよ」と娘の柔らかい黒髪を撫でる。
娘は頭を撫でられて気持ちが良いのか、すぐに目を閉じて寝てしまった。
私は娘を撫でながら、「そのある時とはね」と心の中で語る。
何でも願いを叶えるという四魂の玉を浄化するときに。狐の血を引く安倍家の陰陽師と、犬の大妖怪が手を組んで戦ったんだ。その後、陰陽師は犬の妖怪を僕 にして人助けをしてまわり、遂には子供が出来る仲にまでなって。そのおかげで今の世の中は人間と妖怪の血が交わった半妖が多くなり、絶滅の危機にあった妖怪は救われましたとさ――。
「めでたし。めでたし」
【完】
森の中を殺生丸さまと歩いていると、どこぞの村人から声をかけられる。
「……」
殺生丸さまは無視。けれど私はそういうわけにも行かず、足を止めてしまう。
最近こういうのが多くなったなぁ……なんて思っていると「これ、鈴。お主のせいじゃぞ」と邪見に咎められる。
「え? 私?」
「何故だかお主が陰陽師だと、あちこちに知れ渡ってるんじゃ」
「な、なんで!?」
私が戦国時代に戻ってきてから。そんなに変わったことは。――……してるかも。
村人たちの妖怪絡みの困りごとを何かと解決してしまっている。妖怪と仲良く、の夢が叶えられるなら。今のうちから出来ることはやりたいと思って。
そして変わったことといえばもう一つ。九字兼定……。あの刀はもう腰に無い。どうも骨喰いの井戸に落としたようだ。
まぁ、戦国時代に戻ってきたことに後悔はないのだけれど。けど。けどっ。
私は殺生丸さまへと目線を向ける。
殺生丸との距離感は何にも変わっていないような気がする。だって最後のスキンシップといえば、戦国時代に戻ってきてお互いに抱き締め合っただけだし。それから何も変わっていないし。
私の視線に気付いて、殺生丸さまが足を止めてこちらを振り向く。
「好きにしろ」
「え?」
「……あの人間の頼みを引き受けたいんだろう」
「あ、はい」
そんな会話をする私達を見て、村人が「お~~~~。噂通りだぁ~~~」と何故か浮足経っている。
私は首を傾げつつも、村人の話をきちんと聞くことにした。
私は緑色をした大量の蝶の妖怪と向かい合う。
村人から聞いた話ではこの大量の蝶たちが、作物を荒らしていくらしい。
「よしっ」
私は意気込んでから大きく口を開けた。
「そこの蝶の大群、これ以上作物を荒らすのは止めなさい!!!」
その瞬間、蝶が一斉にこちらに向かってきた。私は素早く式神、炎虎を取り出す。
手加減しつつ……手加減しつつ……。
「やつらに火傷を負わせて!」
炎虎が炎を吹く。けれど蝶は灰にならない。上手い具合に軽く焦げ跡だけが残る。
戦国時代に戻ってくるまでの三年間。修行したかいがあった。式神のコントロールはばっちり。陰陽術も前よりパワーアップしている。
これで――。殺生丸さまの隣に立てる。
「これに懲りたらもう」
そこまで言ったところで頭上に大きな影がかかる。
「!」
ハッと空を見上げる。と、一層大きな蝶が羽ばたいていた。大きな蝶はこちらに向かってくる。
「風鳥!!!」
咄嗟に風鳥で風を巻き起こす。狙い通り大きな蝶は強風に煽られてよろめく。
よし、これで。
被害は最小限、と思ったのもつかの間。蝶がよろめいた反動でバランスを崩し、そのままこちらに急降下してくる。
「っ!」
避けきれない!!!
私はギュッと目を閉じた。
「危ない、嬢ちゃん!!!」と村人の声が遠くから聞こえたような気がした。
だが。
………………。
痛みは襲ってこない。
?
私は恐る恐る目を開けた。
「!」
目の前には殺生丸さまの顔。そしてそんな殺生丸さまにお姫様抱っこされている私。と、地面に激突して伸びてしまっている大きな蝶。
どうも私は殺生丸さまに助けられたらしい……。と思考がまとまって。
「ごごごご、ごめんなさい!!!」
私は殺生丸さまに抱きかかえられた状態のまま、頭を何度も下げる。
「……無事ならそれでいい」
殺生丸さまは私を地面に下ろした。私はゆっくりと大きな蝶へと近づく。
気絶はしているものの、死んではいないようだ。
ホッと息を吐いて、村人に向き直る。
「しばらく蝶たちは動けないでしょう。これに懲りて悪さはしないと思います」
「そうかい。いや~助かったよ。それにしても噂通りなんだな~」
「……噂?」
そういえば最初に会った時も「噂」と言っていたような。
私は首を傾げつつ、「あのー。その噂って」と恐る恐る村人に尋ねる。
「ああ。二人のことが噂になっているんだよ」
ん? 二人?
私は殺生丸さまをチラリと見る。
二人って私と殺生丸さまのことだよね。
「その噂っていうのが。美人な陰陽師の娘さんが、偉く強い妖怪を
僕? 殺生丸さまが? 私が僕じゃなくて? しかも溺愛? え? どういうこと?
私が顔を真っ赤にして「違いますっ!」と答えたのは、考えがまとまった後だった。
―――――――
「いや、ここからが大切でね。そのお母さん、狐だったわけだけど。とにかく正体を明かされた狐と、正体を明かしてしまった犬は仲が悪くなってしまうんだ」
『日本霊異記』の中の「狐を妻として子を生ましめし縁」という話をまだ幼い娘に話す。娘にはまだ難しい話かと思ったが、興味津々に聞いているのを見て再び口を開く。
「でもね、狐と犬はある時を境に仲良くなるんだ」
娘があらかさまにほっとしたのを見て、父親である私は笑った。
「そのある時とは……ていうのも語りたいけど、今日はここまで。もう寝る時間だよ」と娘の柔らかい黒髪を撫でる。
娘は頭を撫でられて気持ちが良いのか、すぐに目を閉じて寝てしまった。
私は娘を撫でながら、「そのある時とはね」と心の中で語る。
何でも願いを叶えるという四魂の玉を浄化するときに。狐の血を引く安倍家の陰陽師と、犬の大妖怪が手を組んで戦ったんだ。その後、陰陽師は犬の妖怪を
「めでたし。めでたし」
【完】