第3話
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「じ……」
『何だ』
通信機のスイッチを入れて呼びかけた途端に返事がくる。
まるで綾がスイッチを入れるのを待ち構えていたかのような、素早いレスポンスだった。
「えっと、」
こんなに早く応答があると思っていなかった綾は慌てた。
何を言おうか考えていると、向こうから話し出した。
『上手いこと化けたようだな』
「えぇ。ドキドキだったけど」
お手並み拝見というソーントンの値踏みするような冷ややかな視線を思い出して、綾は肩をすくめる。
「でも、もう大丈夫。あなたがすぐそばにいるって、五エ門が言っていたから」
『あぁ。窓が見える位置にいる』
綾は窓に駆け寄った。
左手にうっそうとした木立がある。
あそこに隠れているのだろうか。
『あまり窓に近づくな。プルーデンスはそんなマネはしない』
「分かってる。今は良いでしょ」
綾は木立の中へ目を凝らしながら言った。
2階とはいえそれほど高さはなく、地面に咲くナデシコまでよく見える。
それでも次元の姿は見えなかった。
『ソーントンは?』
「五エ門が追っ払ってくれたわ。今頃は書庫へ行ってると思う。私が王子に話を聞き、ソーントンは伝説にまつわる書籍を探す事になっているの」
『なぁ綾。伝説なんてのは、ほんの少し歴史的に脚色されたメルヘンみたいなもんだろ』
次元は言いにくそうにしながら、それでも言葉を続ける。
『それを真に受けて危険を冒すなんざ、馬鹿げているとは思わないのか?』
現実的に考えれば、人間がウサギに変わることはあり得ない。
宝石を盗んだ女が消えウサギが現れたからといって、女をウサギだと考えるのは確かに飛躍しすぎている。
「次元の言いたいことも分かるけど……ソーントンがメルヘンを信じ込む人だと思う? 宮廷の秘書よ? いい大人で、分別もある」
『分別があるなら誘拐なんかしない』
綾は黙ってしまった。
次元の言い分ももっともだ。
『ソーントンの出方を見ようと言ったが、俺は……』
次元も口をつぐんだ。
通信機を通し、木々のざわめきがノイズのように聞こえた。
『心配なんだ。綾』
呻くように次元が言った。
短い一言に、努めて感情を消そうとしている様子を綾は嗅ぎとった。
彼が列車での失敗を悔やんでいるのが感じられた。
「列車での事は私が勝手にやったんだもの、あなたのせいじゃないわ」
そう返しても、次元は無言のままだ。
「ありがとう、心配してくれてすごく嬉しい。でも、私にとってトフィーはとても大切な存在なのよ」
綾は静かに言った。
「ソーントンに誘拐されてもトフィーを手放さなかったのはね、次元。またあなたに会えると思ったからなの」
通信機は沈黙している。
次元は悩んでいるようだった。
綾は身を乗り出し、窓を大きく開け放った。
「ずっと会いたかったの。あなたに」
『おい綾、何をやって……!』
次元の言葉は途中から叫びに変わり途切れた。
木立の中から飛び出した次元は、窓から身を投げた綾を地面すれすれのところで受け止める。
「何を、」
次元は非難すべく眉根を寄せて綾を見下ろしたが、一瞬で毒気を抜かれた。
腕の中の綾は嬉しそうに微笑んでいた。
「ホラ、心配することないじゃない。ちゃんと守ってくれる」
「あのなぁ……」
次元は呆れながら綾を見つめた。
綾は頬を高潮させ、瞳をキラキラと輝かせている。
「綾……」
「次元……?」
体に回された彼の腕に力がこもるのを感じ、綾は彼を見上げた。
見上げた先の、あまりにも真剣で熱のこもった瞳に、綾は言葉を忘れてただ見つめ返す。
木々を揺らす風の音だけが、辺りを包んでいた。
「俺を試すようなマネは止せ。演技か本当か分からなくなる」
五エ門が駆けつけてくるのが見えて、次元は綾を地面に下ろした。
「演技だなんて、そんなんじゃ……」
綾は次元の顔を見上げた。
彼は何かを堪えるような、苦しそうな顔をしていた。
「次元……?」
「……何でもない」
視線に気づいた次元は、パッと背中を向けてしまった。
「綾殿、早く部屋へ。誰かに見られたらマズい」
五エ門が周囲を気にしながらやってきて、綾の腕をとった。
「ごめんなさい」
綾は大人しく五エ門に従った。
途中で次元を振り返ったが、彼は既に木立の奥へと姿を消しており、そこには誰もいなかった。
『何だ』
通信機のスイッチを入れて呼びかけた途端に返事がくる。
まるで綾がスイッチを入れるのを待ち構えていたかのような、素早いレスポンスだった。
「えっと、」
こんなに早く応答があると思っていなかった綾は慌てた。
何を言おうか考えていると、向こうから話し出した。
『上手いこと化けたようだな』
「えぇ。ドキドキだったけど」
お手並み拝見というソーントンの値踏みするような冷ややかな視線を思い出して、綾は肩をすくめる。
「でも、もう大丈夫。あなたがすぐそばにいるって、五エ門が言っていたから」
『あぁ。窓が見える位置にいる』
綾は窓に駆け寄った。
左手にうっそうとした木立がある。
あそこに隠れているのだろうか。
『あまり窓に近づくな。プルーデンスはそんなマネはしない』
「分かってる。今は良いでしょ」
綾は木立の中へ目を凝らしながら言った。
2階とはいえそれほど高さはなく、地面に咲くナデシコまでよく見える。
それでも次元の姿は見えなかった。
『ソーントンは?』
「五エ門が追っ払ってくれたわ。今頃は書庫へ行ってると思う。私が王子に話を聞き、ソーントンは伝説にまつわる書籍を探す事になっているの」
『なぁ綾。伝説なんてのは、ほんの少し歴史的に脚色されたメルヘンみたいなもんだろ』
次元は言いにくそうにしながら、それでも言葉を続ける。
『それを真に受けて危険を冒すなんざ、馬鹿げているとは思わないのか?』
現実的に考えれば、人間がウサギに変わることはあり得ない。
宝石を盗んだ女が消えウサギが現れたからといって、女をウサギだと考えるのは確かに飛躍しすぎている。
「次元の言いたいことも分かるけど……ソーントンがメルヘンを信じ込む人だと思う? 宮廷の秘書よ? いい大人で、分別もある」
『分別があるなら誘拐なんかしない』
綾は黙ってしまった。
次元の言い分ももっともだ。
『ソーントンの出方を見ようと言ったが、俺は……』
次元も口をつぐんだ。
通信機を通し、木々のざわめきがノイズのように聞こえた。
『心配なんだ。綾』
呻くように次元が言った。
短い一言に、努めて感情を消そうとしている様子を綾は嗅ぎとった。
彼が列車での失敗を悔やんでいるのが感じられた。
「列車での事は私が勝手にやったんだもの、あなたのせいじゃないわ」
そう返しても、次元は無言のままだ。
「ありがとう、心配してくれてすごく嬉しい。でも、私にとってトフィーはとても大切な存在なのよ」
綾は静かに言った。
「ソーントンに誘拐されてもトフィーを手放さなかったのはね、次元。またあなたに会えると思ったからなの」
通信機は沈黙している。
次元は悩んでいるようだった。
綾は身を乗り出し、窓を大きく開け放った。
「ずっと会いたかったの。あなたに」
『おい綾、何をやって……!』
次元の言葉は途中から叫びに変わり途切れた。
木立の中から飛び出した次元は、窓から身を投げた綾を地面すれすれのところで受け止める。
「何を、」
次元は非難すべく眉根を寄せて綾を見下ろしたが、一瞬で毒気を抜かれた。
腕の中の綾は嬉しそうに微笑んでいた。
「ホラ、心配することないじゃない。ちゃんと守ってくれる」
「あのなぁ……」
次元は呆れながら綾を見つめた。
綾は頬を高潮させ、瞳をキラキラと輝かせている。
「綾……」
「次元……?」
体に回された彼の腕に力がこもるのを感じ、綾は彼を見上げた。
見上げた先の、あまりにも真剣で熱のこもった瞳に、綾は言葉を忘れてただ見つめ返す。
木々を揺らす風の音だけが、辺りを包んでいた。
「俺を試すようなマネは止せ。演技か本当か分からなくなる」
五エ門が駆けつけてくるのが見えて、次元は綾を地面に下ろした。
「演技だなんて、そんなんじゃ……」
綾は次元の顔を見上げた。
彼は何かを堪えるような、苦しそうな顔をしていた。
「次元……?」
「……何でもない」
視線に気づいた次元は、パッと背中を向けてしまった。
「綾殿、早く部屋へ。誰かに見られたらマズい」
五エ門が周囲を気にしながらやってきて、綾の腕をとった。
「ごめんなさい」
綾は大人しく五エ門に従った。
途中で次元を振り返ったが、彼は既に木立の奥へと姿を消しており、そこには誰もいなかった。