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この章の夢小説設定◯◯ちゃん、と呼ばれます。
エッちゃん、とか、ユウちゃん、とか。
◯◯の部分のみ入れてください。
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ピンチだ。
駐車違反の取締り中にちょうど戻ってきた車の持ち主の男性。
免許証の提示を求めると、
「個人情報だから、俺のを見せる代わりにあんたの身元も確認させろ」
などと迫られた。
電話番号を教えろなどと迫られて困っていると、
「ちょっと。そこのオニーサン」
穏やかな声とともに私と男の間に割って入ったのは、ダークグレーのスーツを着た背の高い男性だった。
「鷹山さん」
思わず彼の名前を口にすると、
「名前、知っててくれたんだ」
と、ニコッと笑った。
そりゃ、知ってますよ。
ていうか、港署の署員でこのあぶない刑事を知らない者などいない。
鷹山さんは男に向かって静かな口調で言った。
「こんなキレーなお巡りさんに迷惑かけちゃ駄目でしょ。ほら、とっとと免許出して」
「うっせーな! 何なんだよテメーは!」
男は敵意むき出しで殴りかかってきた。
しかし鷹山さんはすました顔で銃を抜き、男に向かって構えてみせた。
眼前に銃口を突きつけられた男は目を見開いたまま動けなくなる。
「免許出せって言ったんだけど、聞こえなかった?」
鷹山さんに脅され……否、促されて、男は慌ててポケットを探り、免許証を差し出した。
違反切符を男に渡し、私はやっと仕事を終えることができた。
「彼女を困らせると、この俺が許さないから。よく覚えておけよ」
走り去る男に、鷹山さんは釘をさした。
車が見えなくなると、鷹山さんが私を見ているのに気がついた。
「あのっ。ありがとうございました。助かりました」
私は慌てて頭を下げる。
「いーの、いーの。キミの為なら何だって喜んでするよ」
鷹山さんは私を見下ろし、小首をかしげて微笑んだ。
魅力的な笑顔。
署の女の子たちがキャーキャー言うのも分かる気がした。
「あっ、スーちゃん!」
背後から聞こえた声に振り向くと、大下さんが路肩に車を停めて駆け寄ってきた。
「大下さん。お疲れ様です」
鷹山さんの相棒。
もう1人のあぶない刑事。
彼はさっき鷹山さんがやったように、私と鷹山さんの間に割り込んできた。
「タカ~。スーちゃんは俺が先に目ぇつけたんだからな。横からトンビが油揚げ掻っ攫うみたいなマネするなよ」
「トンビじゃないの、鷹なの、俺は」
鷹山さんはスルリと大下さんをかわし、私に歩み寄った。
「ねぇスーちゃん。一緒にコーヒーでもどう?」
「あの、でも、勤務中で……」
「タカ!」
大下さんは鷹山さんを押しのけ、私の肩を抱いて右耳にそっと囁いてくる。
「スーちゃん、あいつは止めとけ。ヤツは大勢女を泣かせてんだから」
「ハハハ……」
なんて答えたらいいやら。
「俺がクレープおごってあげる。行こう」
「でも大下さん、勤務中……」
その時、車から無線の呼び出し音が聞こえた。
「港署から各移動。中区新山下のアパートで変死体発見との通報がありました……」
刑事2人は顔を見合わせた。
すっかり刑事の顔に戻って、大下さんは開いた窓から無線を取り上げる。
「こちら港302。直ちに向かいます」
「あーあ、スーちゃんと仲良くなるチャンスが台無し」
鷹山さんは私を見下ろし、笑って肩をすくめた。
「じゃぁねスーちゃん。また今度」
鷹山さんは私の肩を抱いてそう囁くと、ガードレールをヒョイとまたいで車に乗り込んだ。
大下さんは私に向かって片手を挙げると、
「じゃぁねスーちゃん。また今度」
鷹山さんと同じ事を言って、ガードレールを飛び越えて車に戻る。
せっかく、お二人と仲良くなれるチャンスだったのに。
「ほんと台無し……」
サイレンを鳴らして走り去る彼らの車を見送りながら、私はため息をついた。
おわり