第15話

「銃を下ろせ、純夏」
銭形はルパンに背を向け、純夏に向き直った。
彼女の耳にそっと囁く。
「ルパンに従って、あのUSBを手に入れろ。お前さんが解決すべき事件は本来、ここで起きた殺人事件なんだからな」
「でも、警部……!」
純夏は反論しようとした。
銭形がルパン逮捕に人生を賭けているのを知っている。
共にルパンを逮捕しようと決めて、ここまでついてきたのだ。
しかし銭形は純夏の言葉を遮った。
「あのフラッシュメモリで全て解決するんだ。お前さんがやらなくて誰がやる?」
「…………」
純夏は唇を噛みしめた。
「お前はデカだ。やるべきことをやれ」
「……はい」
純夏はルパンに歩み寄った。
ため息をつき、渋々といった様子で口を開く。
「取引に応じるわ。何処へでも好きに逃げればいい」
「話が早くて助かる。言葉に若干トゲがあるのは、その可愛い顔に免じて許してあげるよ」
「言っとくけど」
ルパンの手からUSBメモリをひったくると、純夏はルパンを睨みつけた。
「いつまでも逃げおおせると思ったら大間違いよ。見てなさい、いつか……」
「ハイハイ、ストーップ」
ルパンが人さし指で純夏の唇をおさえた。
「名残惜しいけんども急いでるから話はそこまで! そんじゃとっつぁん、元気でなぁ!」
ルパンはトラックの運転席に飛び乗ると、タイヤを軋ませて猛スピードで去っていく。
純夏は悔しそうな顔でそれを見送った。
大きくため息をつく。
「警部、申し訳ありません。結局ルパンを取り逃がす事になってしまいました」
謝りながら振り返ると、そこに銭形の姿はなかった。
「銭形警部……?」
キョロキョロしていると、見慣れた車が猛スピードで走ってきた。
銭形が窓から顔を出して叫ぶ。
「わしはルパンを追う! 取引したのは純夏でわしじゃないからな!」
「えぇっ!?」
目を丸くした純夏に、銭形は笑って片手をあげてみせた。
「じゃあな純夏! 達者でやれよ!」
それが、銭形の別れの言葉だった。
純夏が言葉を返すひまもなく、車は見えなくなってゆく。
もっと色々教わりたかった。
あの人と一緒に、もっと事件を解決してみたかった。
あの人みたいになりたい。
信念を持ち、真っ直ぐに生きる人に。
「ありがとうございました……!」
純夏は姿勢を正し、銭形の車に向かって敬礼した。
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