第14話
「……ここまで似てると、正直気味が悪いわね」
不二子が呟いた。
綾には不二子の背中で見えないが、前方に誰がいるのかすぐに分かった。
「ジョン・ドー……」
「何よ、こいつ男なの?」
不二子はジョン・ドーのつま先から頭までをじっくり観察した。
「男が変装してるのに誰も見破れないなんて、ちょっとプライドが傷つくわ」
眉根を寄せて、肩をすくめる。
「ジョン・ドー(名無しのゴンベエの意)ね……プロの変装師か何か?」
「まぁね」
ジョン・ドーは短く答える。
綾は不二子に顔を寄せてそっと訊ねた。
「変装師……なにそれ」
「裏の業界にもね、いろんなのがいるのよ」
不二子は視線をジョン・ドーから離さずに答えた。
ジョン・ドーは手にした銃を不二子に向け構えた。
「彼女を寄こせ。そうすれば命だけは助けてやる」
「何よ、その三文芝居みたいなセリフ。生憎だけど私、貢がれるのは好きだけど人に貢ぐのは大っ嫌……」
彼女の言葉が終わらないうちにジョン・ドーの銃が火を吹いた。
「んもう、ヒトの話は最後まで聞きなさいよ!」
不二子は綾の肩を抱いて、脇道に飛び込んだ。
複雑に入り組んだ通路を逆手にとり、ジョン・ドーの視覚から外れようと小刻みに曲がる。
照射範囲の狭い照明が点々と光を落とし、走っていく二人を明滅させた。
「こういうの、私の分野じゃないんだけど」
物陰に身をひそめると、不二子はため息交じりに呟いた。
スカートの下からデリンジャーを引き抜き、綾に握らせる。
「これね、グリップが短いから人さし指で銃身支えて、引きがねは中指ね。ヨロシク」
「えっ? ちょ、ちょっと!」
「無事に逃げられたのは私のおかげって、次元に証言してね」
いきなり綾の手を掴んで奥の通路へと押しやり、叫ぶ。
「走りなさい!」
綾は反射的に走り出した。
「居たぞ!」
複数の男の声とともに、背後で銃声が聞こえた。
綾は立ち止まらず、振り返りもしなかった。
銃を渡されて使い方を説明されても、使いたくない。
必死で走った。
「あっ!」
足元の配管に気付かず、つまずいて派手に倒れ込んだ。
デリンジャーが手から離れて床を滑ってゆく。
その先には、両開きのドアがあった。
見覚えのあるその場所は、捕まってすぐ、カルロスに連れてこられた部屋だ。
水エネルギーシステムのある部屋。
恐怖で一気に鳥肌が立ち、体が震えた。
そこから立ち去ろうと踵を返し、不意に不二子の言葉を思い出す。
『次元は?』
『ルパンたちとエネルギーシステムを見に行ったわ』
綾はドアを開けて勢いよく室内に駆け込んだ。
不二子が呟いた。
綾には不二子の背中で見えないが、前方に誰がいるのかすぐに分かった。
「ジョン・ドー……」
「何よ、こいつ男なの?」
不二子はジョン・ドーのつま先から頭までをじっくり観察した。
「男が変装してるのに誰も見破れないなんて、ちょっとプライドが傷つくわ」
眉根を寄せて、肩をすくめる。
「ジョン・ドー(名無しのゴンベエの意)ね……プロの変装師か何か?」
「まぁね」
ジョン・ドーは短く答える。
綾は不二子に顔を寄せてそっと訊ねた。
「変装師……なにそれ」
「裏の業界にもね、いろんなのがいるのよ」
不二子は視線をジョン・ドーから離さずに答えた。
ジョン・ドーは手にした銃を不二子に向け構えた。
「彼女を寄こせ。そうすれば命だけは助けてやる」
「何よ、その三文芝居みたいなセリフ。生憎だけど私、貢がれるのは好きだけど人に貢ぐのは大っ嫌……」
彼女の言葉が終わらないうちにジョン・ドーの銃が火を吹いた。
「んもう、ヒトの話は最後まで聞きなさいよ!」
不二子は綾の肩を抱いて、脇道に飛び込んだ。
複雑に入り組んだ通路を逆手にとり、ジョン・ドーの視覚から外れようと小刻みに曲がる。
照射範囲の狭い照明が点々と光を落とし、走っていく二人を明滅させた。
「こういうの、私の分野じゃないんだけど」
物陰に身をひそめると、不二子はため息交じりに呟いた。
スカートの下からデリンジャーを引き抜き、綾に握らせる。
「これね、グリップが短いから人さし指で銃身支えて、引きがねは中指ね。ヨロシク」
「えっ? ちょ、ちょっと!」
「無事に逃げられたのは私のおかげって、次元に証言してね」
いきなり綾の手を掴んで奥の通路へと押しやり、叫ぶ。
「走りなさい!」
綾は反射的に走り出した。
「居たぞ!」
複数の男の声とともに、背後で銃声が聞こえた。
綾は立ち止まらず、振り返りもしなかった。
銃を渡されて使い方を説明されても、使いたくない。
必死で走った。
「あっ!」
足元の配管に気付かず、つまずいて派手に倒れ込んだ。
デリンジャーが手から離れて床を滑ってゆく。
その先には、両開きのドアがあった。
見覚えのあるその場所は、捕まってすぐ、カルロスに連れてこられた部屋だ。
水エネルギーシステムのある部屋。
恐怖で一気に鳥肌が立ち、体が震えた。
そこから立ち去ろうと踵を返し、不意に不二子の言葉を思い出す。
『次元は?』
『ルパンたちとエネルギーシステムを見に行ったわ』
綾はドアを開けて勢いよく室内に駆け込んだ。