第14話

綾にとって、それはいつも現実のように鮮明だった。
眼前で大きく燃え上がる炎。
まるで写真が燃えていくように、ママの姿が炎に包まれていく。
「ママ!」
必死で手を伸ばすが、炎が悪意を持っているかのように邪魔をする。
やがて視界は完全に炎にのみ込まれ、赤一色になる。
「ママ! ママ!」
叫んだ自身の声でハッと目が覚めた。
「…………」
いつもの夢だ。
心臓が早鐘を打ち、呼吸が乱れる。
怖い。苦しい。
身をよじって体の自由がきかない事に気付き、そこでようやく捕まったのを思い出した。
何かおそろしい薬を注射されたが、今のところ何も異変は感じられない。
効かなかったのか、効果があらわれるまで時間がかかるかのどちらかだ。
綾は辺りを見回した。
水エネルギーシステムも人の姿もない。
何もない小さな部屋だった。
周波数を教えるまで、ここに閉じ込めておくつもりなのだろう。
綾は深呼吸を繰り返して呼吸を整えようとした。
カルロスに連れてこられた時は、綾はまだ冷静だった。
次元の言葉も聞かずに勝手に行動したのだから自業自得だと思った。
しかしあの夢を見ると綾は子供に戻ってしまう。
繰り返し見てきたせいで最近では自分でも対処できるようになってきてはいたが、後ろ手に椅子に縛られて身動きのとれない綾は、自分を抱きしめて心を守ることすらできない。
エネルギーシステムを利用した兵器は完成しているし、変な薬のせいで精神が崩壊するかもしれないしと、立て続けにショックを受けたばかりの彼女には、もう恐怖に抵抗する術はなかった。
誰かに抱きしめてほしい。大丈夫だと言ってほしい。
綾は小さい子供のように鼻をすすった。
本人も気づかないうちに涙があふれていた。
「次元……」
呟いて、そして我に返る。
『目障りなものは早目に排除する。次に会う時は奴が死ぬ時だ』
カルロスの言葉を思い出し、綾は唇を噛んだ。
泣いている場合ではない。
次元はおそらく、来るなと言っても助けに来るだろう。
だがそれは彼を危険にさらす事に他ならない。
平気で警察署を破壊するような奴が相手では、いくら次元でもきっと無傷ではいられないだろう。
会いたい。
でも来てほしくない。
相反する気持ちが交互に現れては胸を締め付け、綾はなんとか拘束から逃れようともがき続けた。
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