第13話

近くのダイナーで、銭形と純夏はコーヒーを前にお互い黙り込んでいた。
腐敗しきっていたこの国の警察機構に、純夏は今更ながら失望する。
なんだか、捜査官でいる事自体がむなしくなっていた。
チラリとテーブルの向かいに目をやると、銭形も厳しい顔をして何かを考え込んでいる。
「……申し訳ありません」
「うん?」
銭形は目を瞬かせて純夏に視線を合わせた。
「この国にさぞ幻滅したでしょう。お力になれず、申し訳ありませんでした」
「いや、まだだ」
銭形は冷めてしまったコーヒーをひと息に飲み干し、空のカップを叩きつけるようにテーブルに戻した。
「ルパンを捕まえるまではワシはあきらめんぞ。奴は必ずヴァルナにやってくる。不二子いる所にルパンあり、だからな」
銭形はジロリと純夏を見た。
「お前さんはどうする」
諦めるのかと問われ、純夏は黙り込んだ。
これ以上捜査すれば刑事局にはいられないだろう。
身の安全だって保障できない。
「迷うならここまでにしておけ。無理にいばらの道を行く事もあるまい」
「警部……」
「わしもお前さんが傷つくのはもう、見たくない」
銭形はポケットから出したしわくちゃの紙幣をテーブルに置き、席を離れる。
「達者でな」
すれ違いざま、俯いた純夏の肩に手を置いた。
その手はすぐに離れたが、そのぬくもりは純夏の心を揺さぶった。
「待って……待って!」
純夏は慌てて立ち上がり、銭形を振り返った。
すでに入口を出ようとしている銭形を走って追いかける。
「銭形警部!」
声を張り上げたとたん、気持ちに足がついてこられずバランスを崩して前のめりになった。
振り向いた銭形は目を丸くし、慌てて駆け寄り彼女を抱きとめる。
「だから、無理するなと言っただろう」
降ってきた声は、いつもより少し柔らかい気がした。
胸の鼓動が早くなるのを感じながら、純夏は顔を上げた。
「私も行きます」
顔が赤くなっているかもしれないが構わなかった。
銭形から体を離し、背をシャンと伸ばして銭形を見上げる。
「連れて行ってください」
迷っているのか、銭形はじっと黙って純夏を見つめている。
断るための言葉を選んでいるのかもしれなかった。
それでも純夏は諦めないと決めていた。
自分から身を引くような弱気な事はもうしない。
「警部、一緒にルパンを捕まえようと言ったのは警部ですよ?」
だからお願いします、と純夏は頭を下げた。
長い沈黙。
やがて、ぶっきらぼうに呟く声が純夏の耳に聞こえた。
「無茶はせんでくれよ。……頼むから」
純夏が顔を上げると、銭形は照れくさそうに笑みを浮かべた。
助手席のドアを大きく開けて純夏を待っている。
「ありがとうございます!」
純夏はパッと顔を輝かせて助手席に乗り込んだ。
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