第12話
「そりゃ、忙しい方が気は紛れるけどさ……」
大きなゴミ袋を担いでヨタヨタ歩きながら、綾はうめくように言った。
宣言通り、その夜からナオミは綾をビシビシ働かせた。
店に出るわけにもいかないから裏方ばかりだったが、どれも重労働ばっかりだった。
クタクタに疲れさせて、考える間もなく寝かせてしまおう、という魂胆らしい。
「よっこいしょ、っと」
店の裏のゴミ置き場に担いでいた袋を下ろすと、綾は店に引き返そうとした。
「綾ちゃん」
聞き覚えのある声に、綾はパッと振り返った。
「不二子さんっ!」
綾は駆け寄った勢いもそのままに、不二子に飛びつく。
「不二子さん、不二子さん、不二子さぁん!」
「そんなに連呼しないでよ。バーゲンセールじゃないんだから」
不二子は笑って、両手で綾の頬を挟んで顔を覗きこんだ。
「元気そう。少しやせたかしら」
「不二子さんこそ。無事で良かった……」
綾は目じりに浮かんだ涙を指で払うと、嬉しそうに微笑んだ。
「でも、どうしてここに?」
「どうしてって……あなたが退屈してるだろうと思って、気分転換に誘いに来たんじゃない」
「すごく嬉しいけど、行けないの」
綾は残念そうに首を振った。
「この前、勝手に行動して迷惑かけちゃったばっかりだから。次元が良いって言うまで、おとなしくしてなくちゃ」
不二子はクスリと笑って、綾の頭を撫でた。
「よくできました。これで『行く』って言ったら散々お説教して、置いていこうと思ってたの」
不二子はハンドバッグから車のキーを取り出した。
「私、次元に頼まれて迎えに来たのよ」
「えっ、ホント?」
「えぇ、安全な場所が見つかったの。行きましょ、みんな待ってるわ」
「あ、待って。ナオミさんにお礼を言ってこなきゃ」
「さっき私が済ませといた。彼……いえ、彼女ね。彼女は今忙しいから、お礼なら後でまた電話をするといいわ」
確かに、店は今一番忙しい時間帯だ。
綾は素直に車に乗り込んだ。
「そうそう、携帯の電源は切っておいてね」
車を発進させながら不二子が言った。
「敵に見つかって邪魔されたくないし」
綾はポケットからスマホを取り出した。
『キャット・クラブ』にきて間もない頃、不二子から一度だけ着信があったが、気付くのが遅くて出る前に切れてしまっていた。
かけ直してみても留守番電話に切り替わっていて、肌身離さず持っていればとずいぶん後悔した。
それで、それからはいつもポケットに入れておくことにしたのだった。
次元からの着信は、逃したくない。
綾は着信音をサイレントにし、バイブ機能をオンにしてポケットに戻した。
大きなゴミ袋を担いでヨタヨタ歩きながら、綾はうめくように言った。
宣言通り、その夜からナオミは綾をビシビシ働かせた。
店に出るわけにもいかないから裏方ばかりだったが、どれも重労働ばっかりだった。
クタクタに疲れさせて、考える間もなく寝かせてしまおう、という魂胆らしい。
「よっこいしょ、っと」
店の裏のゴミ置き場に担いでいた袋を下ろすと、綾は店に引き返そうとした。
「綾ちゃん」
聞き覚えのある声に、綾はパッと振り返った。
「不二子さんっ!」
綾は駆け寄った勢いもそのままに、不二子に飛びつく。
「不二子さん、不二子さん、不二子さぁん!」
「そんなに連呼しないでよ。バーゲンセールじゃないんだから」
不二子は笑って、両手で綾の頬を挟んで顔を覗きこんだ。
「元気そう。少しやせたかしら」
「不二子さんこそ。無事で良かった……」
綾は目じりに浮かんだ涙を指で払うと、嬉しそうに微笑んだ。
「でも、どうしてここに?」
「どうしてって……あなたが退屈してるだろうと思って、気分転換に誘いに来たんじゃない」
「すごく嬉しいけど、行けないの」
綾は残念そうに首を振った。
「この前、勝手に行動して迷惑かけちゃったばっかりだから。次元が良いって言うまで、おとなしくしてなくちゃ」
不二子はクスリと笑って、綾の頭を撫でた。
「よくできました。これで『行く』って言ったら散々お説教して、置いていこうと思ってたの」
不二子はハンドバッグから車のキーを取り出した。
「私、次元に頼まれて迎えに来たのよ」
「えっ、ホント?」
「えぇ、安全な場所が見つかったの。行きましょ、みんな待ってるわ」
「あ、待って。ナオミさんにお礼を言ってこなきゃ」
「さっき私が済ませといた。彼……いえ、彼女ね。彼女は今忙しいから、お礼なら後でまた電話をするといいわ」
確かに、店は今一番忙しい時間帯だ。
綾は素直に車に乗り込んだ。
「そうそう、携帯の電源は切っておいてね」
車を発進させながら不二子が言った。
「敵に見つかって邪魔されたくないし」
綾はポケットからスマホを取り出した。
『キャット・クラブ』にきて間もない頃、不二子から一度だけ着信があったが、気付くのが遅くて出る前に切れてしまっていた。
かけ直してみても留守番電話に切り替わっていて、肌身離さず持っていればとずいぶん後悔した。
それで、それからはいつもポケットに入れておくことにしたのだった。
次元からの着信は、逃したくない。
綾は着信音をサイレントにし、バイブ機能をオンにしてポケットに戻した。