第12話
次元と五エ門は警察署の前までやってきた。
建物は大きく崩れ落ち、夜空に向かって真っ赤な火の手があがっている。
「綾……!」
次元はあたりを見回し、焦燥感から唇をかみしめた。
五エ門がその肩をポンと叩く。
「とにかくあたりを探そう」
「あぁ」
2人は建物の周りを見回った。
キンッ!
殺気を感じた五エ門が剣を抜き、次元の眼前で小さな火花が散った。
銃弾が足元に転がる。
顔を向けると、カルロスが細く煙の上がる銃を片手に立っていた。
「お姫様を迎えに来たのか?」
カルロスの口もとにうっすら笑みが浮かぶのを、次元はギロリと睨みつけた。
「綾を傷つけたら、まず生きていられると思うなよ」
「その頃には、お前も墓ン中だ」
「!」
いまにもカルロスに飛びかかっていきそうな次元を手で制して、五エ門が訊ねた。
「綾はどこだ」
カルロスが屈みこみ、地面に倒れていた細い腕を引っ張った。
金髪に真っ赤なドレスの彼女は、抵抗もせずされるがままになっている。
うつむいた顔を髪が覆い、その表情はわからない。
次元は息をのんだ。
『約束よ、次元』
美湖の言葉がよぎる。
「綾ぁっ!」
叫ぶと同時に次元はジャケットの裾を跳ね上げ、ベルトからマグナムを引き抜いて発砲した。
カルロスは彼女の手をはなし、コンクリートの残骸の陰に身を隠した。
彼女の体は力なく地面に崩れ落ちる。
「あまり撃たないほうがいいんじゃないのか!」
カルロスが叫び、手にしたライフルの引き金をひく。
「流れ弾が彼女にあたってもしらねぇぜ!」
次元も身をひるがえして物陰に隠れ、弾を回避した。
数センチ手前で弾がはじける音がする。
「おめぇはよく知ってるはずだ。俺ははずさねぇってな」
相手の間を読んで、弾倉に残る弾をすべてお見舞いする。
シリンダーを振り出し、薬きょうを落として新しい弾を詰め込んだ。
「次元。拙者が」
「……あぁ」
五エ門の言わんとすることを理解し、次元は頷いた。
タイミングをはかって飛び出した五エ門に、カルロスの弾が降り注ぐ。
五エ門は目にもとまらぬ速さで斬鉄剣を振り、そのすべてを受け止めた。
次元はその隙に斜めに飛び出し、物陰に潜んだカルロスの姿を視界にとらえる。
「カルロス!」
次元は引き金をひいた。
振り向いたカルロスの頬を弾がかすめる。
タラリと血が流れた。
「どこを見ている!」
真上から声がし、カルロスは頭上をふり仰ぐ。
五エ門が剣を上段に構え、高く飛び上がっていた。
カルロスは大きく後退しながら、ライフルを連射する。
五エ門はそれを剣で受け流しながら着地し、逃げるカルロスを追った。
2人は激しくやりあいながらその場を離れていく。
「綾っ!」
次元は駆け寄って彼女を抱き起した。
金髪のかつらをはぎ取ると、綾ではない顔があらわれた。
よく見れば、銭形と一緒にいた女刑事だ。
『あのカワイコちゃん、やっぱ刑事だったよ。純夏ちゃんっていうんだって』
ルパンの言葉を思い出す。
「ううっ…」
純夏がうっすらと目を開けた。
「おい、大丈夫か?」
「あなたは……」
「そんなこたぁどうでもいい。綾は……公務執行妨害で捕まえた中に女がいただろう、そいつはどうした」
「綾さんなら……私が囮になって逃がしました……」
次元は彼女の安っぽいドレスを見た。
それでこんな格好をしているわけか。
「すまねぇ。怪我、させちまって……」
「仕事ですから」
純夏はかすかに微笑んで見せた。
「とっつぁんは……銭形はどうした」
「わしはここだ!」
がれきの向こうから声が聞こえた。
回り込むと、手錠で水道管につながれて身動きが取れなくなっている銭形を見つけた。
「何をやってるんだ……」
次元は銃で手錠を破壊し、自由にしてやった。
「面目ない。彼女をかばったら爆風に吹っ飛ばされて、気を失っとった。気づいたらこのザマでな」
「立てるか?」
「あぁ。なんともない」
次元は純夏を抱き上げ、銭形の腕に引き渡した。
「重傷だ。早く病院へ運んでやってくれ」
「すまんな。……しっかりしろ純夏」
銭形が通りで身分証を広げて車を止め、後部座席に無理やり乗り込んだ。
走り去る前、運転手がこちらに目くばせした。
おそらく変装したルパンだろう。
『こちらは問題ない』と手ぶりで伝えると、車は猛スピードで去っていった。
「相すまぬ。取り逃がした」
五エ門が肩を落として戻ってきた。
1人で立っている次元を見て、怪訝そうな顔をする。
「綾はどうした?」
「綾じゃなかった。女刑事が囮になって逃がしてくれたそうだ」
「そうか」
携帯がメールの着信を知らせた。
『リョウちゃん無事 ナオミ』
その文面を2度読み返した次元は、その場に力なくへたり込んだ。
不覚にも涙が浮かびそうになり、帽子を目深にかぶりなおす。
「お主、本当に惚れているのだな……」
五エ門が呟いた。
「あぁ」
美湖に頼まれたからじゃない。
父性愛みたいなものだと思っていたこの感情は、いつの間にか恋愛感情に変わっていった。
彼女を守りたい。
失いたくない。
「そうさ。惚れてんだ……悪いか」
「いや」
五エ門が手を差し出し、次元はそれにつかまって立ち上がった。
「ルパンに言うなよ。あいつはうるせぇからな」
「承知」
2人はゆっくりと歩き出した。
建物は大きく崩れ落ち、夜空に向かって真っ赤な火の手があがっている。
「綾……!」
次元はあたりを見回し、焦燥感から唇をかみしめた。
五エ門がその肩をポンと叩く。
「とにかくあたりを探そう」
「あぁ」
2人は建物の周りを見回った。
キンッ!
殺気を感じた五エ門が剣を抜き、次元の眼前で小さな火花が散った。
銃弾が足元に転がる。
顔を向けると、カルロスが細く煙の上がる銃を片手に立っていた。
「お姫様を迎えに来たのか?」
カルロスの口もとにうっすら笑みが浮かぶのを、次元はギロリと睨みつけた。
「綾を傷つけたら、まず生きていられると思うなよ」
「その頃には、お前も墓ン中だ」
「!」
いまにもカルロスに飛びかかっていきそうな次元を手で制して、五エ門が訊ねた。
「綾はどこだ」
カルロスが屈みこみ、地面に倒れていた細い腕を引っ張った。
金髪に真っ赤なドレスの彼女は、抵抗もせずされるがままになっている。
うつむいた顔を髪が覆い、その表情はわからない。
次元は息をのんだ。
『約束よ、次元』
美湖の言葉がよぎる。
「綾ぁっ!」
叫ぶと同時に次元はジャケットの裾を跳ね上げ、ベルトからマグナムを引き抜いて発砲した。
カルロスは彼女の手をはなし、コンクリートの残骸の陰に身を隠した。
彼女の体は力なく地面に崩れ落ちる。
「あまり撃たないほうがいいんじゃないのか!」
カルロスが叫び、手にしたライフルの引き金をひく。
「流れ弾が彼女にあたってもしらねぇぜ!」
次元も身をひるがえして物陰に隠れ、弾を回避した。
数センチ手前で弾がはじける音がする。
「おめぇはよく知ってるはずだ。俺ははずさねぇってな」
相手の間を読んで、弾倉に残る弾をすべてお見舞いする。
シリンダーを振り出し、薬きょうを落として新しい弾を詰め込んだ。
「次元。拙者が」
「……あぁ」
五エ門の言わんとすることを理解し、次元は頷いた。
タイミングをはかって飛び出した五エ門に、カルロスの弾が降り注ぐ。
五エ門は目にもとまらぬ速さで斬鉄剣を振り、そのすべてを受け止めた。
次元はその隙に斜めに飛び出し、物陰に潜んだカルロスの姿を視界にとらえる。
「カルロス!」
次元は引き金をひいた。
振り向いたカルロスの頬を弾がかすめる。
タラリと血が流れた。
「どこを見ている!」
真上から声がし、カルロスは頭上をふり仰ぐ。
五エ門が剣を上段に構え、高く飛び上がっていた。
カルロスは大きく後退しながら、ライフルを連射する。
五エ門はそれを剣で受け流しながら着地し、逃げるカルロスを追った。
2人は激しくやりあいながらその場を離れていく。
「綾っ!」
次元は駆け寄って彼女を抱き起した。
金髪のかつらをはぎ取ると、綾ではない顔があらわれた。
よく見れば、銭形と一緒にいた女刑事だ。
『あのカワイコちゃん、やっぱ刑事だったよ。純夏ちゃんっていうんだって』
ルパンの言葉を思い出す。
「ううっ…」
純夏がうっすらと目を開けた。
「おい、大丈夫か?」
「あなたは……」
「そんなこたぁどうでもいい。綾は……公務執行妨害で捕まえた中に女がいただろう、そいつはどうした」
「綾さんなら……私が囮になって逃がしました……」
次元は彼女の安っぽいドレスを見た。
それでこんな格好をしているわけか。
「すまねぇ。怪我、させちまって……」
「仕事ですから」
純夏はかすかに微笑んで見せた。
「とっつぁんは……銭形はどうした」
「わしはここだ!」
がれきの向こうから声が聞こえた。
回り込むと、手錠で水道管につながれて身動きが取れなくなっている銭形を見つけた。
「何をやってるんだ……」
次元は銃で手錠を破壊し、自由にしてやった。
「面目ない。彼女をかばったら爆風に吹っ飛ばされて、気を失っとった。気づいたらこのザマでな」
「立てるか?」
「あぁ。なんともない」
次元は純夏を抱き上げ、銭形の腕に引き渡した。
「重傷だ。早く病院へ運んでやってくれ」
「すまんな。……しっかりしろ純夏」
銭形が通りで身分証を広げて車を止め、後部座席に無理やり乗り込んだ。
走り去る前、運転手がこちらに目くばせした。
おそらく変装したルパンだろう。
『こちらは問題ない』と手ぶりで伝えると、車は猛スピードで去っていった。
「相すまぬ。取り逃がした」
五エ門が肩を落として戻ってきた。
1人で立っている次元を見て、怪訝そうな顔をする。
「綾はどうした?」
「綾じゃなかった。女刑事が囮になって逃がしてくれたそうだ」
「そうか」
携帯がメールの着信を知らせた。
『リョウちゃん無事 ナオミ』
その文面を2度読み返した次元は、その場に力なくへたり込んだ。
不覚にも涙が浮かびそうになり、帽子を目深にかぶりなおす。
「お主、本当に惚れているのだな……」
五エ門が呟いた。
「あぁ」
美湖に頼まれたからじゃない。
父性愛みたいなものだと思っていたこの感情は、いつの間にか恋愛感情に変わっていった。
彼女を守りたい。
失いたくない。
「そうさ。惚れてんだ……悪いか」
「いや」
五エ門が手を差し出し、次元はそれにつかまって立ち上がった。
「ルパンに言うなよ。あいつはうるせぇからな」
「承知」
2人はゆっくりと歩き出した。