第12話
「わざわざ、そっちから出向いてくるとはな。手間が省けた」
背後からいきなり腕を掴まれた綾は、ハッと息をのんで振り返った。
カルロスが口もとにうっすらと笑みを浮かべて綾を見下ろしていた。
「はなして……!」
綾は振りほどこうともがいたが、カルロスはびくともしない。
平然とした顔で、腕を掴んでいる手の握力を強める。
綾の顔が苦痛にゆがんだ。
「おとなしくしている方が身のためだ。骨が折れるぞ」
カルロスはそのまま歩き出した。
綾は足を突っ張って抵抗するも、圧倒的な力でズルズルと引きずられていく。
「おい! ちょっと待て!」
呼び止められてカルロスは足を止めた。
煩わしそうな顔をして振り返るその眼前に、身分証をつきつけたのは銭形だった。
「ICPOの銭形だ」
「知っている」
カルロスは不機嫌そうな声でため息交じりに言った。
「何の用だ」
「そいつはあのオカマ集団の1人じゃないのか」
銭形が指さす先には、連行しようとする純夏を無視して口やかましく騒いでいるホステスたちの姿があった。
「リョーちゃんを放しなさい!」
「そうよ、そうよ!」
カルロスにむかって口々にわめきたてている。
銭形は視線をカルロスに戻した。
「1人だけどこへ連れて行くつもりだ」
「関係ないだろう」
「いや、彼らは公務執行妨害で警察が逮捕した。全員しょっ引く。こいつもだ」
銭形は綾の手を引き、カルロスから引き離そうとした。
「こいつはダメだ」
カルロスは手を離さずに、綾を無理やり自分のほうに引き寄せた。
銭形は呆れ顔でため息をつく。
「そんなに気に入ったのか?」
「何だと?」
銭形のリアクションの意味が分からず、カルロスはきき返した。
「女のカッコはしていても、そいつは男だぞ? どこが良いんだか」
「なっ……!」
カルロスが絶句する。
「変態野郎ーっ!」
「うちの店はオサワリ禁止よーっ!」
ホステスからも野次が飛んできた。
「ふざけるな!」
カルロスが片手に握ったマシンガンを発砲した。
きゃーっと、決して甲高くはない悲鳴があがる。
「とにかく、だ。お前さんのお気に入りでも何でも、1度は署に連行する。後で身柄を引き取りに来ればいいだろう」
もう1度、銭形が綾の手をとった。
カルロスは銭形に銃を向ける。
「わしを殺しても何の意味もないぞ」
銭形はカルロスを睨んだ。
いくら銭形でも、そう何度も同じ脅しにはのらない。
逆にカルロスを脅しにかかる。
「国際問題を起こしたいなら撃てばいい。自国の人間を殺しても政府はたやすく隠ぺいするだろうが、わしはそうはいかんぞ」
「……チッ」
しばしの沈黙の後、カルロスは舌打ちをした。
「そいつは殺人事件の容疑者だ。連れて行かれると困る」
「こいつがか?」
銭形はじっと綾を眺めまわした。
「とってつけたようだが……どっちにしても同じことだ。こいつは公務執行妨害で現行犯逮捕した。こっちの用件が済んだら引き渡してもいい」
カルロスは悔しそうに銭形を睨んでいたが、無駄だと分かったのだろう。
やがて銃を下ろした。
銭形はホステスたちと綾を大型のバンに乗せ、警察署へと向かった。
背後からいきなり腕を掴まれた綾は、ハッと息をのんで振り返った。
カルロスが口もとにうっすらと笑みを浮かべて綾を見下ろしていた。
「はなして……!」
綾は振りほどこうともがいたが、カルロスはびくともしない。
平然とした顔で、腕を掴んでいる手の握力を強める。
綾の顔が苦痛にゆがんだ。
「おとなしくしている方が身のためだ。骨が折れるぞ」
カルロスはそのまま歩き出した。
綾は足を突っ張って抵抗するも、圧倒的な力でズルズルと引きずられていく。
「おい! ちょっと待て!」
呼び止められてカルロスは足を止めた。
煩わしそうな顔をして振り返るその眼前に、身分証をつきつけたのは銭形だった。
「ICPOの銭形だ」
「知っている」
カルロスは不機嫌そうな声でため息交じりに言った。
「何の用だ」
「そいつはあのオカマ集団の1人じゃないのか」
銭形が指さす先には、連行しようとする純夏を無視して口やかましく騒いでいるホステスたちの姿があった。
「リョーちゃんを放しなさい!」
「そうよ、そうよ!」
カルロスにむかって口々にわめきたてている。
銭形は視線をカルロスに戻した。
「1人だけどこへ連れて行くつもりだ」
「関係ないだろう」
「いや、彼らは公務執行妨害で警察が逮捕した。全員しょっ引く。こいつもだ」
銭形は綾の手を引き、カルロスから引き離そうとした。
「こいつはダメだ」
カルロスは手を離さずに、綾を無理やり自分のほうに引き寄せた。
銭形は呆れ顔でため息をつく。
「そんなに気に入ったのか?」
「何だと?」
銭形のリアクションの意味が分からず、カルロスはきき返した。
「女のカッコはしていても、そいつは男だぞ? どこが良いんだか」
「なっ……!」
カルロスが絶句する。
「変態野郎ーっ!」
「うちの店はオサワリ禁止よーっ!」
ホステスからも野次が飛んできた。
「ふざけるな!」
カルロスが片手に握ったマシンガンを発砲した。
きゃーっと、決して甲高くはない悲鳴があがる。
「とにかく、だ。お前さんのお気に入りでも何でも、1度は署に連行する。後で身柄を引き取りに来ればいいだろう」
もう1度、銭形が綾の手をとった。
カルロスは銭形に銃を向ける。
「わしを殺しても何の意味もないぞ」
銭形はカルロスを睨んだ。
いくら銭形でも、そう何度も同じ脅しにはのらない。
逆にカルロスを脅しにかかる。
「国際問題を起こしたいなら撃てばいい。自国の人間を殺しても政府はたやすく隠ぺいするだろうが、わしはそうはいかんぞ」
「……チッ」
しばしの沈黙の後、カルロスは舌打ちをした。
「そいつは殺人事件の容疑者だ。連れて行かれると困る」
「こいつがか?」
銭形はじっと綾を眺めまわした。
「とってつけたようだが……どっちにしても同じことだ。こいつは公務執行妨害で現行犯逮捕した。こっちの用件が済んだら引き渡してもいい」
カルロスは悔しそうに銭形を睨んでいたが、無駄だと分かったのだろう。
やがて銃を下ろした。
銭形はホステスたちと綾を大型のバンに乗せ、警察署へと向かった。