第11話

「不二子ちゃーん! 会いたかったよぉ!」
ルパンが抱きつこうとするのを笑顔のままはねのけ、不二子は言った。
「私のアカウント全部にメールをありがとう。偽の地図に暗号、おかげでここにたどり着くのが遅くなっちゃったわ」
「敵さんにバレないようにと思って、張り切っちゃった」
ごめーん、と笑うルパンに、不二子は呆れ顔だ。
「本物の地図、あれが一番最悪よ。地図に見えないんだもの。ヘビかと思っちゃったわ」
「ヘビじゃねぇだろう。どっちかって言えばありゃぁ……」
「何よ次元。何だと思ったの?」
「……いいじゃねえかそんな事」
次元は誤魔化し、逆に不二子に訊ねた。
「どうやって逃げてきた」
「バカなのがいて助かったわ。ちょっと甘い声で誘っただけで、簡単にロープほどいてくれちゃって」
不二子の説明はカルロスの話と一致した。
「どこに連れて行かれた?」
「目隠しされて車に乗せられたけど、近くをグルグル回ってるだけなのは分かったわ。連れて行かれたのはヴァルナね。エレベーターに乗せられて地下に下りたわ」
「連中は水エネルギーシステムの事をどこまで掴んでるんだ」
「わからないわ。私がとらわれてたのは薄暗くて何も無い部屋だったし……」
「奴らに何か喋ったか?」
不二子はキッと眉をつりあげ、次元を睨んだ。
「あんな奴らに話すわけないじゃない! 乙女の肌を傷物にしたのよ?」
「ほらみろ。俺が言ったとおりだろ?」
ルパンがエヘンと胸をはった。
「怪我してるのにって、綾ちゃんがずいぶん心配してたぜ。自分のせいで捕まったと責めてばかりだった」
「悪い事をしたわ。どうせヘリオスの連中だろうって、油断してたの」
不二子はふうとため息をついた。
「まさか倉庫の隣がヴァルナだったなんてね。驚いてたら、一瞬の隙をつかれて捕まっちゃったわ。でもちょうど窓があったから、目印代わりに口紅を投げ入れたんだけど……見つけてくれたのよね?」
「綾ちゃんが持ってるよ」
「格子のはまったあの小さな窓から入れたのよ、天才的でしょ? クレオパトラの涙を盗んだ時も(華麗なるチームプレイ作戦)、私が投げれば良かったんじゃないかしら」
不二子は得意そうにニッコリ笑った。
それから部屋を見回して訊ねる。
「ところで、綾ちゃんは?」
「とある場所でかくまってもらっている」
次元はカルロスの話をした。
彼の手から守るために、綾を自分から引き離した事も。
「……会いに行っちゃだめ?」
「ヤツに見つかる」
「じゃ、電話なら良いでしょ?」
不二子はスマホを取り出した。
「声を聴けば彼女も安心するだろうし、私の気もおさまる」
「探知されないように、手短にな」
分かってるわよと呟きながら不二子は番号を押す。
コール音が鳴るか鳴らないかのうちに、五エ門が立ち上がった。
「おい、何か聞こえないか?」
不二子は慌てて通話を切る。
地面に耳をつけて音を聞いたルパンが叫んだ。
「逃げろ! 奴ら、大量に水を流し込んできやがった!」
4人は弾かれたように走り出した。
低く唸るような水音が、だんだん近づいてくる。
「ヤロー、俺らをウ○コ扱いしやがって! 覚えてろよ!」
ルパンの叫び声が下水道にこだました。



※文中に若干不適切な表現がありました事を、深くお詫び申し上げます。
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