第11話

薄暗い室内。
ルパンがブツブツ言いながら膝の上で何やら作業をしている。
「やってくれんじゃないの、カルロスのヤロー。もう許さねぇからな……」
アジトは全滅だった。
仕方なく隠れられる場所を探して転々とし、ようやく今夜のアジト(仮)に落ち着いたのだ。
「みてろ、今にギャフンと言わせてやる」
五エ門は斬鉄剣を抱いて座り、ルパンの独り言を黙って聞いていた。
2人はもうかれこれ1時間はこうしている。
「……次元はどうした」
恨み言を繰り返すルパンにとうとう耐えられなくなったのか、五エ門が訊ねた。
「途中で降ろした。綾ちゃんをかくまうつもりだろ」
「どこに?」
「知るかよ。宝物はどっか高い塔のてっぺん……とかじゃねぇの?」
そう言ってルパンはニシシと笑う。
上手い事を言ったつもりらしい。
五エ門はやれやれとため息をついた。
「!」
ふいに2人は立ち上がり、部屋の入口近くに駆け寄って身構えた。
低い靴音が近づいてくる。
やがて音がはっきり聞こえてくると、ルパンは銃をしまって元の場所に座り込んだ。
五エ門も黙ってそれにならう。
聞き覚えのある足音だった。
「もう少しマシなとこはなかったのかよ、ルパン」
姿を現した次元は開口一番文句を言った。
それもそのはず、そこは正確には部屋とは言えない場所だった。
今はもう使われていない、古い下水道のずっと奥に設けられていた、石造りの小さなスペースだ。
「それにおめぇのメール、ありゃ何だ。地図だって気づくのにしばらくかかったぞ」
「どう見ても下水道の地図でしょうよ……何だと思ったんだ」
ルパンが心外だという顔で次元を見上げた。
「……」
「なぁ、何だと思ったんだよ次元」
「うるせぇな、どうでもいいだろーが!」
次元は怒鳴ってごまかし、ルパンはまた手もとの作業に戻った。
「何を作っているんだ」
「イイもの。それよりメールで頼んどいたもん、貰ってきてくれたか?」
「あぁ。メルヴィルのじーさん、まだあそこで店やってたんだな」
次元は手にしていた紙袋の一つをルパンに差し出した。
もう一つは五エ門に手渡す。
「ハンバーガーしかねぇわ。我慢してくれ」
ルパンと五エ門は同時に紙袋を開け、一瞬の後、無言で袋を交換した。
逆だったようだ。
「それで? 綾ちゃんは?」
「安全な場所に置いてきた」
「ふうん……やっぱ俺も食おうっと。五エ門、1個ちょうだい」
ルパンは紙袋と一緒に膝の上の物を隅に押しやり、ハンバーガーにかぶりついた。
「ま、場所はだいたい予想つくけど。男ばっかの所に放り込んで、不安じゃないワケ?」
「おめぇだって、あいつら見りゃわかる」
「妙に信頼してんのね次元ちゃん。お気に入りのコでもいんの?」
「ブッ……」
次元は思わず咥えた煙草を取り落した。
「あのなぁ!」
「ナハハ。冗談よ、ジョーダン!」
ピクルスを噛み噛みルパンは笑う。
カチンときた次元はズカズカとルパンに歩み寄った。
「そうだ、怒りついでに思い出したぞ。おめぇな、あのヘリもうちょっと引きつけておけなかったのかよ! おかげでひどい目にあったぜ。おめぇのせいで……」
綾を泣かせたんだぞ。
言いかけて、止めた。
「だってぇ、とっつぁんに追っかけられちゃったんだもん」
ルパンは両手の人さし指どうしをくっつけてイジイジしたかと思うと、急に笑顔になって続ける。
「そういや、あのカワイ子ちゃん、やっぱ刑事だったよ。純夏ちゃんっていうんだって」
「知るか!」
「まぁそう怒んなって。あの子なかなか優秀よ? 綾ちゃんが俺らに同行してるの見抜いたし、ジョン・コリンズ殺害事件に関して政府に疑問を持ってる」
「……上手くいけば殴りこむ時に利用できるかもしれねぇってか」
「そーゆーこと」
ルパンが頷いた時だ。
再び靴音が聞こえてきて、3人は慌てて身がまえた。
現れたのは……
「ずいぶんなお出迎えだこと」
そう言って笑う、不二子だった。
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