第3話

とある閑静な住宅街。
綾は自宅のポストを開け、はみ出している郵便物をカバンに突っ込んだ。
玄関を開けてリビングに足を踏み入れたとたん、綾は驚いて息を飲んだ。
「なに、これ……」
家の中はめちゃくちゃだった。
家具は倒れ、引出しという引出しが全て引きずり出されていた。
中身は床にばらまかれた状態だ。
泥棒なら、引出しを全部出す様な効率の悪い事はしないだろう。
明らかに何かを探した跡。
でも、何を?
綾は床に落ちていた小さな箱を取り上げた。
菓子箱に折り紙を貼っただけの宝箱。
蓋が開けられ、中身は空だ。
綾は床に這いつくばり、箱の中身を探した。
ハートの形に折った折紙。
綺麗な栞。
押花にした四葉のクローバー。
玩具の指輪。
それらの宝物と一緒にしまってあった、何枚かのママの写真。
「あ、あった!」
綾は写真を拾い集めるとカバンにしまった。
服の埃を払って立ち上がると、背後で撃鉄を起こす小さな音。
スーツ姿の男が数人、綾に銃を向けていた。
「こんな出迎え方、気に食わない」
綾は男達を睨んで言った。
「私のパパをどうしたの」
その答は返ってこなかった。
「一緒に来てもらおう」
男の1人が綾に歩み寄り、腕を掴もうと手を伸ばした。
「いやっ……!」
その時、銃声が響いた。
2発、3発。
「リョウ!」
その声が耳に届くやいなや、綾は振り向きざまに走り出す。
「次元っ!」
名前を呼んで、その胸に飛び込んだ。
男達は銃を持つ手を撃たれ、戦意をなくしている。
「来い。走れるか?」
次元は綾の手を引いて走り出した。
綾は走りながら、次元の背中を見ていた。
記憶の奥から、次元の声がする。

『リョウ!』
名前を呼ぶ声。
『綾、走れるか?』

そう、あの時と同じ。
あの時もこうやって手を引かれて走った。
ママの所へ。
「早く乗れ!」
はっきりとした次元の声に我に返った綾は、慌てて目の前のフィアットに飛び乗った。
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