第11話

「お前らいったい何やっとったんだ! 町がメチャクチャだぞ!」
「こわーいオジサンに追いかけられちゃってさ。人気者はツライねぇ!」
「それは、ジョン・コリンズ殺害と何か関係がありますか?」
純夏の言葉に、ルパンは真顔になった。
「……あんた誰さん?」
「刑事局捜査官、山中純夏です」
「ふぅん。こんなに可愛いのに、刑事さんかぁ。もったいねぇの」
「質問に答えてください」
「えーと。ジョン・コリンズって、誰?」
「とぼけないで」
純夏はピシャリと言った。
「銭形警部を名乗ってジョン・コリンズに手紙を出した男は、あなたですよね? ルパン」
「なに⁉︎」
銭形は驚いて目を見開いた。
ルパンは後部座席の背もたれに背中を預けると、ニヤリと笑った。
「鋭いねぇ純夏ちゃん。なかなか良い部下持ったじゃないの、とっつぁん」
「わしを騙ったのはお前だったのか、ルパン! だが一体、何のために?」
「まぁ、ちょいとした事後報告だよ。それ以上はノーコメント」
「ヘリオス社から助け出した朝比奈綾は、どうしました?」
「ノーコメント」
キキーッ。
純夏が急ブレーキをかけた。
銭形とルパンはそろってシートに顔をぶつける。
「イテテテ……顔に似合わず乱暴だなぁ」
「まさかあなた……」
純夏は顔色を失ってルパンを振り返った。
ルパンは慌てて首を振る。
「いやまさか、殺したりしないって! こー見えてオレ、良心的な泥棒さんだぜ?」
「……朝比奈綾さん、今もあなた達と一緒にいますね?」
ルパンは目を丸くしてゴクリと喉を鳴らした。
「驚いた。どうしてわかったんだい?」
「私、ヴァルナの元職員に聞き込みして調べたんです。殆どがヘリオス社に雇われていたので、すぐわかりましたよ。当時、ヴァルナ研究所に用心棒として次元大介が雇われていたんです。研究所の敷地内には研究員の家族が住んでいたし、朝比奈一家と次元大介が顔見知りであってもおかしくありません」
「まぁな。だがそれは、綾ちゃんと俺達が今も行動を共にしてるという根拠にはならないだろう?」
「えぇ、そうですね」
「じゃぁ、なぜ断定した」
「簡単な事です。あなたの車の後部座席に、ハンカチが落ちていました」
純夏はシャーロック・ホームズのように言った。
彼女が差し出したハンカチには、飾り文字でRが刺しゅうされている。
「あなたの周りにRのつく人物は朝比奈綾しかいない」
「俺が町でカワイ子ちゃんをナンパしたとは考えないわけ? ローズちゃんとか、レベッカちゃんとか」
純夏はルパンの顔をマジマジと見つめた。
「あなたについていく女の子がいるとは思えません」
「ぐっ……」
ルパンは言葉を詰まらせた。
銭形はニヤニヤと笑っている。
「これは、血……?」
広げたハンカチに赤いシミを見つけた純夏は、顔をこわばらせてハンカチを突き出した。
「あぁ、それね。ケチャップ」
ルパンは笑って答えた。
純夏の手からハンカチを受け取り、ポケットにしまう。
純夏は再びパトカーを発進させた。
「それで、さっきの言葉を信じるなら、コリンズさん殺害はあなたの仕業ではないんですね?」
純夏が訊ねた。
「なんで俺がじーさん殺さなきゃなんねぇんだ。もっとよく考えな」
「もしかして、犯人を知ってます?」
「その手にはもうのらないぜ。後は自分で考えなよ」
ルパンに言われ、純夏は一度黙りこんだ。
それからまた口を開く。
「政府があの事件に口を出すのは、あの一件に政府が絡んでいるから……?」
「いいね」
「ジョン・コリンズは政府に殺されたってぇのか?」
銭形が驚く。
気にせず純夏は質問を続ける。
「じゃぁルパン、あなたが政府に追われていたのは殺人の証拠を掴んでいるから……?」
「んー、おしい!」
ルパンはパチンと指を鳴らした。
「さて、と。後はホントに自分らで考えな。なかなかスジがいいぜ純夏ちゃん」
「逃げるつもりか、ルパン?」
銭形は自分とルパンをつなぐ手錠を目視した。
ちゃんとかかっている。
パトカーは猛スピードで走っているから、飛び降りれば怪我どころじゃすまない。
4/9ページ
スキ