第11話

「くそっ、一体どうなってるんだ」
車に戻っても、銭形は文句の言いっぱなしだった。
「仕方ありませんよ。政府には逆らえません」
純夏は何度目かの同じセリフを繰り返す。
「そういう事じゃない!」
銭形は助手席から身を乗り出し、純夏の肩を掴んだ。
純夏は慌ててブレーキを踏んだ。
「警部、危ない……」
「部下が発砲されて、何故あの上司は怒らないんだ!」
「は……?」
急に怒りの矛先が変わったのに気付き、純夏は目をしばたたかせる。
「何を……」
「女に銃を向けるなど、わしでも腹が立ったというのに!」
銭形は彼女の体をガクガク揺さぶった。
「あんたも何故言い返さんのだ。あの上司はお前さんを軽んじとる!」
「放してください」
純夏は銭形の胸を押して助手席に押し返し、大きくため息をついた。
銭形もそれでやっと冷静になる。
「あぁ……すまん。つい熱くなってしまった。これは決してセクハラなどでは……」
「私が悪いんです」
「いや、お前さんは悪くない! わしが断りもなく肩を掴んで、しかもこう、ユサユサして……」
銭形は両手で空を掴んで、揺さぶるジェスチャーをした。
「そうじゃありません」
「……へ?」
銭形はジェスチャーの途中で動きを止め、純夏を見た。
「私が男だったら。そしたら少しは役に立てたかもしれないのにって、そう、思います……」
純夏は銭形を見上げた。
絞り出すように言う。
「せめて日本人じゃなかったら……。同僚たちとの間に壁を感じるんです。私は気のきいた事も言えませんし、いつも1人で……」
純夏は内向的だ。
日本ならそれを奥ゆかしいとも言えるが、ここではマイナスにしかならない。
遠慮をしていては、やる気がないと思われる。
「あんたがあんまり自分の事を喋らないから、みんな誤解しとるだけだ」
銭形は、俯いた純夏の頭に手を置いた。
なぐさめるようにそっと撫でる。
「あんたがデキルって所を見せてやれ。喋らなくても、行動で示してやれば良い。ルパンを逮捕しよう。わしと、あんたで」
「警部……」
純夏は顔を上げた。
銭形は彼女を見つめて頷いたが、無意識に彼女の頭を撫でていたことに気付いて慌てて手をひっこめた。
「す、すまんっ! だから、これは別にセクハラとかではなくてだな……!」
顔を赤くして必死に弁解する銭形を見て、純夏はクスリと笑った。
気持ちを切り替え、再びハンドルを握る。
先ほどから警察無線がひっきりなしに鳴っていたのには気付いていた。
どうやらこの付近で政府相手にカーチェイスを繰り広げている奴がいるらしい。
「ルパンか? こんなハチャメチャやらかすのはあいつしかおらんだろう!」
「しっかりつかまってて下さい、警部!」
純夏はめいいっぱいアクセルを踏み込んだ。
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