第10話

しばらく走ると、次元がポツリと言った。
「怖かったか……?」
背中に押し付けられた綾の首が縦に振られるのを感じた。
体にまわされた綾の腕は、さっきからずっと力が入ったままだ。
「悪かったな……」
今度は首を横に振っている。
次元はバイクを降りると、綾を見た。
綾は目に涙をためて次元を見上げている。
その表情は子供の頃から変わらないなと思いながら、次元は綾を抱き寄せた。
泣くなとは言わない。
むかし彼女の母親に教わった通り、次元はただ黙って抱きしめる。
やがて綾は体の緊張を解き、次元から離れた。
「ごめんなさい、もう大丈夫」
綾は手の甲で涙を拭いた。
「それで、これからどうするの……?」
「不二子がアジトの場所を吐かされてるかも知れねぇから、アジトには戻れねぇ」
次元は綾の手をとってゆっくりと歩き出す。
「俺はルパンと合流して、不二子を探す。あいつがどこまで情報を漏らしたか、または漏らしていないのか、確かめないとな」
「私も行く。不二子さんの無事を確かめたいもん」
「ダメだ」
次元は立ち止り、綾に向き直った。
「カルロスが狙ってるのはお前だ」
「……」
綾はつい先ほどの出来事を思い起こして身震いをした。
水エネルギーシステムの情報が欲しいなら、生きて捕まえなければならないはずだ。
それなのに、さっきのあれは殺そうとしてるとしか思えない。
「カルロスは目的の為なら手段は選ばない。捕虜に暴れられて拘束に手こずるくらいなら、瀕死の状態の方が楽だと考える男だ。実際、捕虜を逃がさない為に目を潰して手足を切り落とせと部下に命じた男だ」
「そ、んな……」
「だから、今回はおとなしく待っていてくれ」
次元は再び歩き出した。
綾は黙ってついていく。
手段を択ばない敵に、自分は何もできない。
一緒に行けば足手まといになり、次元達を危険にさらす事になるかもしれない。
「でもアジトに帰れないんでしょ? どこに隠れてろっていうの……?」
「ここだ」
顔を上げた綾は、目を丸くした。
「ここって……」
有無を言わさず戸惑う綾の手を握り、次元は入り口のドアを叩いた。
「はぁ~い!」
ややあって、中から低音ボイスが返事をした。
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