第10話

「……!」
次元の舌打ちが聞こえ、バイクが横滑りしながら急停止した。
綾が前方を覗き見ると、前方には大きな装甲車両や戦車が並び、道路を封鎖していた。
ここへ来るまでに一般車両は順次脇道へと追い払われ、いつの間にかさっきのハイウェイと同じ状況になっていた。
迷彩服の男が前に進み出てきた。
「カルロス……」
苦々しそうに次元が呟く。
カルロスは力量を推し量るように次元の全身に目を走らせてから、顔を上げた。
「ヴァルナに来てたな。気付いてたぜ。久しぶりに会ったってぇのに、黙って帰るこたぁねぇだろう」
「見たとこ忙しそうだったんでな」
「一流の殺し屋だったお前が、今じゃルパン三世の仲間か。変われば変わるもんだな。バイクのケツに女なんざ乗せて」
カルロスは視線を綾に移した。
綾はその威圧感に圧されて目をそらしたが、すぐに思い直して視線を合わせ、口を開いた。
「不二子さんをどうしたんですか」
カルロスは面白そうに綾を見つめた。
「峰不二子か? 逃げちまったよ。見張りが奴の誘惑に負けて、ヨロシクやろうってんで縄をほどいちまったらしくてよ。俺が見たときには、椅子に縛られてオネンネしてたのは見張りの方だった」
綾はホッとしたのもつかの間、今度はカルロスが訊ねた。
「あんたアサヒナの娘のリョウだろう? こちらに来る気はないか? 待遇は悪くねぇし、身の安全も保障する」
「断る」
綾が答える前に、次元がピシャリと言い放った。
ベルトからマグナムを抜いてカルロスを睨みつける。
「そこを退け」
「後悔するぜ?」
カルロスは不安そうに眉をしかめている綾をじっと見つめていた。
獲物を前にした捕食者の、ちょっと楽しんでいるかのような目つきだった。
次元はバイクをUターンさせた。
猛スピードで戦闘車両の列から遠ざかる。
目前には攻撃ヘリがおり、次元はそれに向かってバイクを走らせる。
「綾、しっかり捕まれ!」
「捕まってるよ」
「バイクにじゃねぇ、俺にだ! スピードが出ねぇんだよ」
彼女はバイクなど乗り慣れないのだから仕方がないのだが、今はそんな事を言ってもいられない。
次元が舌打ちをし、いきなりバイクの前輪が大きく持ち上がった。
「ひゃっ……!」
身体がのけ反り転落しそうになった綾は、反射的に次元の体に両腕を回し、しっかりとしがみついた。
すると浮いていた前輪が地面に落ち、バイクはガタガタと歩道橋を登っていく。
「はっはー! 面白くなってきやがった!」
(ワザとだ。絶対、ワザとだ……!)
綾は次元の背中に張りつきながらそう思った。
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