第10話

真上をハイウエイが交差する、ヘリコプターから死角になる位置で車を降りた次元と綾は、急いで身をひそめた。
ルパンが素早く車をUターンさせてもとの道を引き返してゆく。
ヘリコプターの音が、フィアットの後ろ姿とともに小さくなっていった。
「……そんな顔をするな。奴が任せろって言ったんだ、任せて大丈夫だ」
綾の表情を見て次元が言った。
ぽん、と背中を叩く。
「俺たちも行くぞ」
「行くって、どこへ……?」
次元は辺りをうかがい、いきなり綾の手をひいて駆け出した。
車道に飛び出し、走ってきたバイクの前に立ち塞がる。
「緊急事態だ。降りろ!」
次元はライダーの鼻先に銃を突きつけ、むりやり引きずり降ろした。
「綾、乗れ」
綾がタンデムシートにおさまると、次元はバイクの持ち主を振り返った。
「タダでとは言わねぇよ。受けとんな」
次元は懐からライターを取り出して男に放った。
宝石のはめ込まれた銀製のライターだ。
投げられたライターに男が手を伸ばしている間に、次元はバイクを発進させた。
「あの人、なんかちょっと気の毒……」
「気の毒なもんか。あのライター……というか、あの宝石一個でこのバイクが何台買えるか」
「ええっ! そんなのあげちゃって良いの?」
「ライターなんざ、火がつきゃあ何でも良い」
事も無げな様子である。
信号を無視し、一般車の間を器用にすり抜けていく。
と、綾の耳がかすかなヘリコプターの音を捉えた。
振り向くと、太陽光を浴び機体を鈍く光らせながら、さっきの攻撃ヘリが背後から迫ってくる。


「次元、うしろ……!」
「ずいぶん早ぇお出ましじゃねぇか。ルパンの奴、ヘタを打ちやがったな!」
次元は慌てて車通りの少ない方へ向かう。
攻撃ヘリの機関砲が唸り、アスファルトが爆ぜる道を蛇行しながら進んだ。
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