第2話
とあるオープンカフェ。
賑やかな通りに面しており、大勢の人が行き交う。
「今? えーっと……」
次元に居場所を告げようとしたところ、不二子が携帯を取り上げた。通話を切り、ハンドバッグにしまう。
「不二子さん……?」
「女同士の時間を邪魔する野暮な男なんて、放っておきましょ」
そう言って不二子は微笑み、ウインクひとつ。
「それより、続きを話して。ヴァルナの事故の時、貴女も研究所にいたんでしょ?」
「最初のタンク爆発の時、私はパパと次元と研究所にいて、家に帰るところだったの。ママはホームパーティーの準備で先に帰ってた。急に爆発が起きて、私達はママが心配で家へ走った。途中でパパが、データが心配だからって研究室に戻ったけど、私と次元はママの所へ急いだ……」
「お家は研究所の近く?」
「敷地内にあったの。平屋の可愛い家。玄関に回った次元より先に庭から入っていったら、家が燃えてた。……ママは窓のそばに立ってた。私はママに駆け寄ろうとしたけど、火が強すぎて……戻ってきた次元に止められた。ママは次元に言ったの。『私の家族をお願い。次元、私達はいつまでも友達よね?』って」
綾は硬い表情で、淡々と話していた。
不二子は、綾の手に自分の手を乗せた。
「無理に話さなくても良いのよ……?」
綾は首を振って大丈夫、と呟いた。
今まで誰にも話せなかった。
誰かに聞いてほしかった。
「研究棟も爆発炎上して、ヴァルナエネルギー研究所はなくなった。ライバル会社の仕業じゃないかって噂もあったけど、結局犯人は分からずじまい。パパは事件の後すぐにヴァルナを辞めて、タクシーの運転手になった。次元ともそれっきりだったわ」
「なぜ今回、次元の所へ?」
「パパがいなくなったと知った時、これはヴァルナの事故と関係があるって直感したの。それで次元を探したんだけど、苦労したわ。あんまり次元の顔とかはっきり覚えてなくて……覚えてたのは後ろ姿と声だけ」
綾は自嘲ぎみに微笑んだ。
「ルパンって泥棒と一緒だって知って、警察のデータを調べたの。そしたら、警視庁からインターポールに出向してる銭形って人がルパンの専任捜査員で、この町に来てるって知った。だから私もこの町に越してきたの」
綾は一度口を閉じ、ミルクティーを飲んだ。
不二子はテーブルに身を乗りだし、囁くように訊いた。
「ねぇ……ヴァルナは一体、どんな研究をしてたのかしら」
「よく知らないわ。水からエネルギーを作りたいんだって、ママは言ってた。一度だけ研究室に入った事があるわ。大きな水槽があって、そこから太いパイプが伸びてた。パイプは黒い箱みたいなものに繋がっていて、沢山のコンピューターとマイクがあった」
「マイク……?」
綾は頷いた。
「そう、マイク。アイドルの真似をして歌って、パパに笑われた。そんなことに使うものじゃないんだよって」
綾は寂しそうに微笑んだ。
「ママがパーティしようなんて思わなければ死ななくてすんだのにって、ずっと思ってた。だって、何の記念日でもないのよ? なのに何で……」
綾の言葉がそこで途切れた。
何かを考える様に視線が宙をさ迷い、それからふいに瞳が大きく見開かれる。
「もしかしてママは……」
「綾ちゃん……?」
綾はバッグを掴んで慌てて立ち上がった。
「ごめんなさい不二子さん。私、ウチに帰らなくちゃ!」
「あっ、ちょっと!」
不二子が止める間もなく、綾は駆けていってしまった。
「何なのよ、もぅ……」
不二子はため息をついた。
つづく
賑やかな通りに面しており、大勢の人が行き交う。
「今? えーっと……」
次元に居場所を告げようとしたところ、不二子が携帯を取り上げた。通話を切り、ハンドバッグにしまう。
「不二子さん……?」
「女同士の時間を邪魔する野暮な男なんて、放っておきましょ」
そう言って不二子は微笑み、ウインクひとつ。
「それより、続きを話して。ヴァルナの事故の時、貴女も研究所にいたんでしょ?」
「最初のタンク爆発の時、私はパパと次元と研究所にいて、家に帰るところだったの。ママはホームパーティーの準備で先に帰ってた。急に爆発が起きて、私達はママが心配で家へ走った。途中でパパが、データが心配だからって研究室に戻ったけど、私と次元はママの所へ急いだ……」
「お家は研究所の近く?」
「敷地内にあったの。平屋の可愛い家。玄関に回った次元より先に庭から入っていったら、家が燃えてた。……ママは窓のそばに立ってた。私はママに駆け寄ろうとしたけど、火が強すぎて……戻ってきた次元に止められた。ママは次元に言ったの。『私の家族をお願い。次元、私達はいつまでも友達よね?』って」
綾は硬い表情で、淡々と話していた。
不二子は、綾の手に自分の手を乗せた。
「無理に話さなくても良いのよ……?」
綾は首を振って大丈夫、と呟いた。
今まで誰にも話せなかった。
誰かに聞いてほしかった。
「研究棟も爆発炎上して、ヴァルナエネルギー研究所はなくなった。ライバル会社の仕業じゃないかって噂もあったけど、結局犯人は分からずじまい。パパは事件の後すぐにヴァルナを辞めて、タクシーの運転手になった。次元ともそれっきりだったわ」
「なぜ今回、次元の所へ?」
「パパがいなくなったと知った時、これはヴァルナの事故と関係があるって直感したの。それで次元を探したんだけど、苦労したわ。あんまり次元の顔とかはっきり覚えてなくて……覚えてたのは後ろ姿と声だけ」
綾は自嘲ぎみに微笑んだ。
「ルパンって泥棒と一緒だって知って、警察のデータを調べたの。そしたら、警視庁からインターポールに出向してる銭形って人がルパンの専任捜査員で、この町に来てるって知った。だから私もこの町に越してきたの」
綾は一度口を閉じ、ミルクティーを飲んだ。
不二子はテーブルに身を乗りだし、囁くように訊いた。
「ねぇ……ヴァルナは一体、どんな研究をしてたのかしら」
「よく知らないわ。水からエネルギーを作りたいんだって、ママは言ってた。一度だけ研究室に入った事があるわ。大きな水槽があって、そこから太いパイプが伸びてた。パイプは黒い箱みたいなものに繋がっていて、沢山のコンピューターとマイクがあった」
「マイク……?」
綾は頷いた。
「そう、マイク。アイドルの真似をして歌って、パパに笑われた。そんなことに使うものじゃないんだよって」
綾は寂しそうに微笑んだ。
「ママがパーティしようなんて思わなければ死ななくてすんだのにって、ずっと思ってた。だって、何の記念日でもないのよ? なのに何で……」
綾の言葉がそこで途切れた。
何かを考える様に視線が宙をさ迷い、それからふいに瞳が大きく見開かれる。
「もしかしてママは……」
「綾ちゃん……?」
綾はバッグを掴んで慌てて立ち上がった。
「ごめんなさい不二子さん。私、ウチに帰らなくちゃ!」
「あっ、ちょっと!」
不二子が止める間もなく、綾は駆けていってしまった。
「何なのよ、もぅ……」
不二子はため息をついた。
つづく