第10話

「いい天気だなぁ」
フィアットを運転しながらルパンはフロントガラス越しに空を見上げた。
「絶好の行楽日和なのに、もったいねぇなぁ」
「いるぜ、ひとりピクニックみたいなのが」
後部座席の次元が隣に座った綾を指さした。
バックミラーを確認すると、綾が黙々とベーコンエッグサンドをかじっている。
「綾ちゃん、ほっぺにケチャップついてるぜ!」
ルパンは笑う。
「え、ウソ。どっち?」
綾は指でケチャップをすくい取ってペロリと舐めると、ハンカチを出して頬を拭った。
車は工場地帯に入っていく。
数メートル前方にミニクーパーの残骸が見えてきた。
その周りには、警察によって黄色いテープで規制線が張られている。
「ま、当然だな。黒焦げの車がありゃあ、誰かしら通報するよな」
「調べられたらマズくない?」
聞こえる訳でもないのに綾は小声で囁いた。
「あれだけ黒焦げなら、アシはつかないだろうよ」
ゆっくりと横を通過する。
制服の警官が誘導棒を振って車を停めた。
ルパンは窓を開けてにこやかに話しかけた。
「ゴクローさん。何かあったの?」
警官は車内に目を走らせた。
作業着で変装したルパン達を見て、近くで働いている工員だろうと思い込む。
「車が燃えてるって通報があって来てみたら、この通りさ。放火らしいが、刑事局の連中は手が足りないらしくて。俺たち制服組まで駆り出される始末さ」
「ははぁ、大変だねぇ。忙しいのは俺らと同じって訳だ」
「そうさ。安月給でこき使われてんのも同じだよ」
ルパンと警官は笑いあった。
「じゃあな。早く犯人見つけてくれよ」
「あぁ。火つけられたくなかったら路駐すんなよ!」
警官に見送られながら、フィアットはゆっくりと工場地帯を進んだ。
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