第10話
カーテン越しの柔らかな朝日を感じ、綾は目を開けた。
いつの間にか、朝になっていた。
頬に手をやると、乾いた涙の跡。
(あぁ私、また泣いたんだ……)
最近すっかり見なくなっていたあの夢を、久しぶりに見た。
ママの胸に広がる赤い血、一面の炎。
綾は首を振って頭の中からその映像を追い出し、ため息をついた。
ベッドに残る微かな煙草の匂いに、ほんの少し前までここに次元がいた事に気づく。
いつもそばにいてくれる。
言葉は無くても支えてくれる人がいる。
ただそれだけで嬉しかった。
綾はリビングへ向かった。
リビングのドアを開けると、アロマの柔らかな香りがした。
『アロマテラピーだってバカにできないわよ』
催眠が解けて全てを思い出した後、毎晩のようにうなされていた綾を心配して、不二子が買ってきた物だ。
ディフューザーが動いているのが目に入ると、綾は声をあげた。
「不二子さんっ……!?」
リビングを見回すが、誰もいない。
「綾ちゃん?」
キッチンのカウンターからルパンが顔を覗かせた。
「不二子なら、まだ帰ってないよ」
「だって、これ……」
ディフューザーを指さすと、ルパンは言った。
「それはオレ。見よう見まねでテキトーにブレンドしてみたけど、まぁ、変な匂いにならなくて良かった」
「なんだ。そっか……」
綾は肩を落としてソファに座り込んだ。
「心配イラナイ、イラナイ!」
ルパンはキッチンから出てきてミルクティーの入ったティーカップを綾の前に置いた。
「不二子ならきっと大丈夫だから」
「うん」
綾は少し元気を取り戻してルパンに笑みを返すと、視線をテーブルに戻した。
ティーカップを持ち上げる時ふと、テーブルの下にアロマテラピーの本が落ちているのに気が付いた。
きっとルパンが読んでいたのだろう。
綾がリビングにやってくる気配を感じて、咄嗟にテーブルの下に隠したのだ。
大の男がアロマオイルを手に、本を見ながらああでもないこうでもないとブレンドしている姿を想像すると、なんだか可笑しかった。
「何をニヤニヤしてんだ」
振り向くとすぐそばに次元が立っていた。
右手にベーコンエッグとトーストの皿、左手にはケチャップのボトルを持っている。
それらを綾の前に置き、じっと顔を覗きこむ。
綾はすました顔でフォークを握った。
「別に、何でもありまセン」
「そうか」
次元は腰を伸ばして、綾を見下ろした。
顔色も元気も、昨日より少しは良くなったようだ。
心の中でホッとする。
「綾。俺はルパンと出かけるから、五エ門と留守番しててくれ」
そう告げると、綾のフォークを持つ手が止まった。
「帰りは何時になるかわからねぇが……」
カシャン。
綾はいきなりフォークを置くと、トーストにベーコンエッグをのせた上にケチャップをかけた。
「私も行く!」
トーストを半分に折りたたみ、それを持って綾は立ち上がる。
「不二子さん探しに行くんでしょ? 一緒に連れていって!」
「……だとよ。どうする、ルパン」
次元はルパンを振り返った。
「いいんでないの? 彼女がいた方が昨日の様子も詳しく分かるし」
「やった!」
綾はベーコンエッグサンドを持って玄関へ行こうとした。
「こら待て」
次元が彼女の襟首を掴んで引き留める。
「オメェは、そのカッコで行くつもりか」
「へ?」
綾はそこでようやく、自分がまだパジャマのままだという事に気が付いた。
「着替えてきます!」
ベーコンエッグサンドを次元に渡して、綾は自室に駆けていった。
いつの間にか、朝になっていた。
頬に手をやると、乾いた涙の跡。
(あぁ私、また泣いたんだ……)
最近すっかり見なくなっていたあの夢を、久しぶりに見た。
ママの胸に広がる赤い血、一面の炎。
綾は首を振って頭の中からその映像を追い出し、ため息をついた。
ベッドに残る微かな煙草の匂いに、ほんの少し前までここに次元がいた事に気づく。
いつもそばにいてくれる。
言葉は無くても支えてくれる人がいる。
ただそれだけで嬉しかった。
綾はリビングへ向かった。
リビングのドアを開けると、アロマの柔らかな香りがした。
『アロマテラピーだってバカにできないわよ』
催眠が解けて全てを思い出した後、毎晩のようにうなされていた綾を心配して、不二子が買ってきた物だ。
ディフューザーが動いているのが目に入ると、綾は声をあげた。
「不二子さんっ……!?」
リビングを見回すが、誰もいない。
「綾ちゃん?」
キッチンのカウンターからルパンが顔を覗かせた。
「不二子なら、まだ帰ってないよ」
「だって、これ……」
ディフューザーを指さすと、ルパンは言った。
「それはオレ。見よう見まねでテキトーにブレンドしてみたけど、まぁ、変な匂いにならなくて良かった」
「なんだ。そっか……」
綾は肩を落としてソファに座り込んだ。
「心配イラナイ、イラナイ!」
ルパンはキッチンから出てきてミルクティーの入ったティーカップを綾の前に置いた。
「不二子ならきっと大丈夫だから」
「うん」
綾は少し元気を取り戻してルパンに笑みを返すと、視線をテーブルに戻した。
ティーカップを持ち上げる時ふと、テーブルの下にアロマテラピーの本が落ちているのに気が付いた。
きっとルパンが読んでいたのだろう。
綾がリビングにやってくる気配を感じて、咄嗟にテーブルの下に隠したのだ。
大の男がアロマオイルを手に、本を見ながらああでもないこうでもないとブレンドしている姿を想像すると、なんだか可笑しかった。
「何をニヤニヤしてんだ」
振り向くとすぐそばに次元が立っていた。
右手にベーコンエッグとトーストの皿、左手にはケチャップのボトルを持っている。
それらを綾の前に置き、じっと顔を覗きこむ。
綾はすました顔でフォークを握った。
「別に、何でもありまセン」
「そうか」
次元は腰を伸ばして、綾を見下ろした。
顔色も元気も、昨日より少しは良くなったようだ。
心の中でホッとする。
「綾。俺はルパンと出かけるから、五エ門と留守番しててくれ」
そう告げると、綾のフォークを持つ手が止まった。
「帰りは何時になるかわからねぇが……」
カシャン。
綾はいきなりフォークを置くと、トーストにベーコンエッグをのせた上にケチャップをかけた。
「私も行く!」
トーストを半分に折りたたみ、それを持って綾は立ち上がる。
「不二子さん探しに行くんでしょ? 一緒に連れていって!」
「……だとよ。どうする、ルパン」
次元はルパンを振り返った。
「いいんでないの? 彼女がいた方が昨日の様子も詳しく分かるし」
「やった!」
綾はベーコンエッグサンドを持って玄関へ行こうとした。
「こら待て」
次元が彼女の襟首を掴んで引き留める。
「オメェは、そのカッコで行くつもりか」
「へ?」
綾はそこでようやく、自分がまだパジャマのままだという事に気が付いた。
「着替えてきます!」
ベーコンエッグサンドを次元に渡して、綾は自室に駆けていった。