第8話

幹線道路ぞいに『キャットクラブ』はあった。
車を停めた次元は三日月と猫の派手派手しいネオンサインを見上げ、ため息をついた。
「キャバレーかよ……」
どうりで綾が『お姉さま方』なんて言い方をする訳だ。
彼女には、この雰囲気は少しばかり刺激が強すぎるかもしれない。
次元は首をふりふり店の扉を開いた。
「いらっしゃーい!」
「⁉︎」
俯き加減で店に足を踏み入れた次元は、店員の予想外の低音ボイスに驚いて顔を上げた。
「あらん、渋めのいいオトコ」
シナをつくってすり寄ってきたのは、派手なドレスを着た男だった。
つまりオカマだ。
慌てて店内に目を走らせると、どのホステスもみんな男だ。
次元は頭を抱えた。
彼女には刺激が強すぎるなんてモンじゃない。
「お席にご案内しま……」
「いや、結構だ」
腕に自分の腕をからめてきた女、否、オカマを振り払い、次元は言った。
「綾を迎えに来た」
「あら、そう。あなたが……」
オカマは次元の足の先から帽子のてっぺんまでを値踏みするように眺めた。
それから、ついてらっしゃいと手招きし、次元を控室へと案内する。
「リョーちゃーん? 来たわよ!」
扉を開けると、中にいたオカマの大群が一斉にこちらを振り返った。
夢見が悪くなりそうな光景に次元はギョッとしたが、強い精神力でなんとか持ちこたえた。
オカマの一団が左右に分かれると、部屋の奥の鏡の前にいた綾の姿が見えた。
安っぽい派手なドレスを着て、顔には濃いめのメイクが施されていた。
「んもう、何やってんのよあんた達!」
次元を案内したオカマが険しい顔をしてわめいた。
「リョーちゃんで遊ぶのはやめなさい! さっさと店に出る!」
オカマに急き立てられた一団は渋々部屋を出ていき、後には次元と綾だけが残った。
「服ね、ボロボロだったから貸してくれたの」
綾はそれだけ言うと、うつむいた。
トコトコと次元に歩み寄ると、腕を回して抱きつく。
「いきなり撃ってきて……」
次元は綾をギュッと抱きしめた。
彼女が細かく震えているのが腕に伝わってくる。
「もう大丈夫だ」
「でも、不二子さんが……」
「あの女なら心配いらないさ。アジトへ戻ろう」
次元は綾の肩を抱いて店を後にした。
7/9ページ
スキ