第8話

どのくらいそうしていただろうか。
気付けば、嵐の後の静けさのような静寂が辺りを包んでいた。
マットな宵闇が静けさに乗じたかのようにやってきて、辺りを覆っている。
(終わったの……?)
綾は恐る恐る立ち上がった。
(終わったのなら、何故不二子さんは戻ってこないの……?)
綾は周囲に目をこらした。
何もない。
少なくとも動くものは。
綾はそろそろとダンボールの隙間から抜け出ると、足音を立てないように気をつけながら屋外に出た。
心なしか早足になりながら破れたフェンスをくぐり、不二子が車をとめた場所へ向かった。
「あ……」
黒こげになりまだくすぶっているミニクーパーを見た時、綾は小さく声をあげた。
記憶の隅に押し込めていたあの記憶がフラッシュバックする。
大好きなママ、真っ赤な炎、焼け落ちて真っ黒になった家の残骸。
飛び交う怒号、サイレンの音、そして次元の声。
あの時見たもの、聞いたものが、今目の前で起こっているかのように鮮明に蘇る。
寒くもないのに体がカタカタと震え、綾は両手で自分の体を抱きしめた。
逃げなきゃ。
ここから逃げなきゃ。
綾は足がすくみそうになるのをこらえて走り出した。
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