第8話

カフェテラスのオープンスペースでおしゃべりしていた綾は、携帯が鳴ったことにすぐには気付かなかった。
「もしもし……うわっ」
思わず顔をしかめて、耳からスマホを離す。
次元が大音量で怒鳴っていた。
「なによもぅ、そんなに怒鳴らないでよ。ごめんってば。今? 不二子さんとお茶してるけど?」
綾は答えながら向かい側に座る不二子を見た。
不二子がニコッと笑いかける。
「別に、変わったことなんかないけど? うん。わかった」
綾は何度か頷くと、スマホを不二子に差し出した。
「次元が不二子さんに代われって」
不二子は嫌そうにスマホ受け取り、開口一番こう言った。
「ただ今留守にしております。御用の方は……」
「周りに気をつけろ、不二子」
返ってきた言葉のただならぬ雰囲気に、不二子はハッとして口をつぐんだ。
黙って次元の話を聞く。
その表情が真顔になっていくのを、綾は少し不安そうに見ていた。
「……わかったわ。じゃ、切るわね」
「次元、何だって?」
綾はスマホを受け取りながら訊ねた。
不二子は綾を促して立ち上がる。
「とりあえず車に乗って。話は中で」
2/9ページ
スキ