第8話

「おやぁ?」
ルパンはテレビの前で立ち止まった。
ニュース番組が放送されている。
「退け。見えねぇ」
次元が短く注意した。
ルパンはその場から動こうともせず次元を振り返った。
「ニュースなんて、珍しいねぇ次元ちゃん。もしかしてキャスターがお前好みだった?」
「うるせぇな。俺だってボガードやマリリン・モンローばっかり見てる訳じゃねぇ」
「あぁ、わかってるさ。リー・ヴァン・クリーフとかリチャード・ウィドマークとかも見るんだろ?」
「……」
西部劇ばかり見ていると言いたいらしい。
撃ち殺してやろうかと思ったが、それこそルパンの思うツボなので止めた。
自分がヒマだから、相棒をからかって遊んでいるだけなのだ。
「もういいから、そこを退け」
次元がもう一度忠告した時だ。
ニュースの音声が耳に飛び込んできた。
『……首を絞められた後、このヴァルナ研究所跡地に遺棄されたもようで……』
ルパンの動きが止まる。
「ヴァルナだと……?」
次元の顔つきも変わり、ソファから体を起こす。
ルパンはテレビの前からソファに移動した。
2人で画面いっぱいに大写しになっている老人の写真をじっと見つめる。
「待てよ。このじーさん、どっかで……」
ルパンが呟いた。
「知り合いか?」
次元に問われてルパンは首を傾げていたが、ジョン・コリンズという名前がでると声を上げた。
「思い出した。ヴァルナの職員だったじーさんだ!」
「なに?」
「ほら、綾ちゃんがここへ来た時、ヴァルナの爆発事故の事を調べたろ? あん時俺は銭形のとっつぁんを騙って、このじーさんに接触して情報をもらったんだ」
「……研究所の跡地で絞殺たぁ、偶然じゃないよな」
「あぁ……」
ニュースは次の話題に移っていた。
次元はテレビのスイッチを切った。
「それで、その時じーさんは何て言ってたんだ?」
「爆発事件の前、兵器利用を目的に政府が資金援助をしてるのを美湖さんが知ったって。だがじーさんは、爆発はおそらくヘリオス社の仕業だろうってちゃんと見抜いてたぜ」
「殺されたのは、ルパンにリークした事への、ヘリオスの復讐か? あの社長、脱獄でもしたんじゃねぇだろうな」
「それなら耳に入ってくるだろう」
「じゃ、残党でもいたか」
「まさか」
社長が逮捕され水エネルギー開発に関わる事件が明るみに出ると、ヘリオスは一度倒産しかけた。
しかしエネルギー供給の損害を回避したい政府の働きかけにより、今は社名を変更して細々と生き残っている。
「現職員が復讐を企てるなんてのは、普通なら考えられねぇ。それに復讐なら、真っ先に俺達を狙うだろ」
「俺達への警告かも知れない」
「次はお前だ、か? それは回りくどいぜ」
ルパンは不満そうに鼻を鳴らした。
「どうであれ、何かわかるまでは気をつけた方がいいな。綾ちゃんはどうしてる?」
「あいつなら出かけた」
「どこに? 連絡してやれよ」
ルパンはスマホを取り出して次元に放った。
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