クリスマス

綾の両親をはじめ研究員が研究室にこもっている間、俺は研究棟を見回った。

研究データと研究員の命を守るのが俺の役目だ。

小さな綾は両親が研究に打ち込んでいる間、ずっと1人だった。

「うん?」

綾がキョロキョロしながら歩いているのが目に入った。

誰かに見つかったら、しこたま怒られるだろうに。

俺は彼女に歩み寄った。

「この辺りをウロチョロするなと言われてなかったか? お嬢ちゃん」

声をかけると、綾はオロオロしながら小さな声で謝った。

「いいさ。見なかった事にしてやるから、さっさと帰んな」

「でも……」

綾は困った様子で、手紙を差し出した。

「ママに渡して送ってもらわないと、サンタさんからプレゼントもらえないから」

「わかった。俺からママに渡しておこう」

「ホント? ありがとう!」

綾は嬉しそうに笑うと、俺に手を振って家へ駆け戻っていった。

それが、はじめて彼女が俺に心を開いた瞬間だった。
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