クリスマス

美湖が正式に綾を紹介してくれたのは、ある年のクリスマス間近の事だった。

子供という未知の生き物を前にたじろぐ俺を見て、美湖は半分面白がっていた。

「ほーら、綾。ご挨拶は?」

そう言って、自分の陰に隠れようとしていた娘を俺の方へ押しやろうとする。

隠れる場所をなくした綾は、仕方なく俺に小さく頭を下げた。

「は……」

挨拶する声が小さくて聞き取れない。

おおかた『こんにちは』とか『はじめまして』とか、そんなもんだろう。

「あぁ」

頷いて手をさしだすと、綾の視線が一度俺の顔を見上げ、それからまた手に戻った。

美湖は笑って綾に握手を促し、綾はおずおずと俺の手を握る。

ちっせー手だ。

綾はじっと俺を観察……というか、俺の顔だけを見つめている。

美湖は微笑みながら綾の傍らにしゃがんで彼女に言った。

「ね? おヒゲに、帽子。サンタさんみたいでしょ?」

「なっ……!」

俺は言葉を失った。

今まで悪魔とか死神とか言われることはあったが、まさかサンタクロースと言われる日がこようとは。

絶句している俺を見て、美湖はクスクスと笑っていた。
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