今ひとつだな、アニー・ウォーカー

「綾はどこだ……?」

ウェイターに変装してパーティ会場に潜り込んだ次元は、すぐさま綾を見つけた。

体にフィットしたタイトなロイヤルブルーのドレスが、父親譲りの白い肌を際立たせる。

母親譲りの漆黒の髪は、頭の高い位置でコンパクトにまとめられている。

どこぞのエージェントさながらに、何気ない風を装いつつ辺りを窺っているが、残念ながら他人の視線にまったく気付けていない。

おいっ、そこのオッサン!
やらしい目で見るな!

次元は、彼女の背後で鼻の下を伸ばしている男に殴りかかりたいのを必死で堪えた。

主催者が乾杯の音頭をとる間に、綾はパソコンのある部屋へ滑り込んだ。

見事だ……と言いたいところだが、これまたしっかり警備員に見られている。

「ったく……」

次元は素早く移動し、綾の後を追う警備員を追って部屋に入った。

驚いている綾を尻目に、背後から頸部を手刀で叩き、警備員を気絶させる。

「隙だらけだな、綾」

「次元……?」

綾はコピーの終わったUSBをパソコンから抜き取り、次元に向き直った。

ウェイターの扮装を脱ぎ捨てて頭に帽子をのせ、いつもの姿に戻った次元を、綾は眉根を寄せて睨む。

「助けに来たの? ママの為に」

「違う」

次元は綾に背中を向けた。
その表情が窺えない位、深く帽子を傾ける。

「……てめぇの女を守る為だ。文句があるか」

綾は一瞬キョトンとしていたが、言葉の意味を理解すると嬉しそうに微笑んだ。

さっきまで人の言葉を真に受けてプンスカ怒っていた奴とは思えない喜びようだ。

上機嫌で後ろ手に手を組み、顔を覗き込もうとする綾かわしながら、次元はニヤリと笑った。

「仕事の方は今一つだな、アニー・ウォーカー」

「ふふっ。それじゃ、私のオーギーになってね、次元?」

綾は次元の腕に自分の腕を絡ませた。

「あぁ、任せろ。いつでもサポートしてやるさ」



おわり
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