第7話

綾へ。

このメッセージに気付いた君が、今どんな状況で聞いているのか、僕は知る由もない。

今僕の視線の先にいる君は無邪気に笑って遊んでいる。

このまま何も起こらず、知らないで済むならそれが一番だけれど、僕はこの罪悪感に耐えられそうにない。

そこで、このファイルに全てを残しておく事にした。
君がこのメッセージを聞く機会と場所は、神がお与えになるだろう。

政府が水エネルギーシステムを兵器利用する目的で資金を提供している事を、僕はミコよりもずっと早くに気付いていた。

しかし、研究はやめられなかった。

学者としての探究心がそうさせた。

僕らは利用されてるだけだ、被害者なんだと、心で言い訳をして、素知らぬフリをした。

神はその罪をお見逃しにはならなかった。

運命のあの日。

何度か研究室に入った事のある君は、いつもの調子で集音マイクで遊び始めた。

僕らは慌てた。

『綾、マイクに触るな! 何度言ったら分かるんだ!』

生まれて初めて、手をあげた。

余程ショックだったんだろう、君は火がついたように泣き出した。

すると、その声にエネルギーシステムが反応した。

水が共鳴し、水槽が金色に光った。

僕らは恐ろしくなった。
この事実が政府に知れたら、実験材料として娘を取り上げられてしまう。

しかし幸いな事に、それ以降、システムが君の声に反応する事はなかった。

あの時の、君のあの号泣だけにしか、共鳴しなかったのだ。

だが、誰がそんな事を信じる?

僕らは研究を辞めて、逃げる事を決めた。

最後だからと、ミコは身内だけのパーティを開く事にした。

公表できないとしても、僕らはは研究を成し遂げた。そのお祝いでもあったんだろう。

それが、あの爆発事件の日だ。

綾。僕は水エネルギーシステムに関する一連の記憶のせいで、君が傷付くのを恐れた。

無邪気に記憶の一端を口にして政府に捕らわれるかもしれない。或いは、分別のつく年頃になった時、罪悪感を覚えて苦しむかもしれない。

或いはただ、僕の過ちを消し去りたかっただけかもしれない。

僕は心理学の本を読みあさり、君に催眠術をかけ、一連の記憶を無意識下に閉じ込めた。

今から、秘密の名前を呼んでその催眠を解く。
そう、僕が呼ぶ君の秘密の名前は、催眠へのキーワードだ。

綾。過去の記憶は君を傷つけるかもしれない。

これを聞く君の隣に、君を支えてくれる仲間がいる事を願って……

愛している、綾。

My angel……
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