第6話

気づくと、綾は目を開けているのか閉じているのか分からなくなるくらいの暗闇にいた。
不二子に誘われて気分転換に出掛ける途中で、見知らぬ男達に囲まれたのだった。
「手荒な事しないで! 綾ちゃんを傷つけたら承知しないわよ!」
不二子が叫んでいるのが聞こえ、そこで意識が途切れた。
そして、気付いたらこの状況である。
綾は周りを見回し、思わず身震いをした。
子供の頃から、暗闇は怖くなかった。
それなのに、今はこの暗闇が泣きたい程恐ろしい。
パパの怒った顔。
撃たれたママ。
あの夢がまざまざと蘇る。
耐えられず立ち上がろうとしたが、椅子に縛り付けられていたのに気付かず、バランスを崩して椅子ごと床に倒れ込んだ。
「動かない方が身のためだよ」
どこからか声がした。
「誰……?」
「君は知らなくて良いことだ」
すぐ真後ろで男の声がした。
耳元で息づかいが聞こえ、椅子が起こされた。
「水を共鳴させる周波数を教えてもらおうか」
「周波数……?」
「ある周波数の音を水に当てると共鳴を起こし、エネルギーを発生する。ヴァルナの開発した水エネルギーシステムだ」
「私は何も知りません! あのシステムは開発研究段階で爆発により失われたと聞いています! それを、何で今さら!」
「あの時の母親と同じだな」
男の言葉に、綾の心臓が跳ねた。
「あのヴァルナ爆発の日さ。お前の母親も、水エネルギーシステムは研究段階だ、私は何も知らないの1点張りだった……」


『強情だな、君も。娘の泣き声でも聞けば気も変わるか?』
ミコの顔色が変わる。
『綾に手を出さないで!』
『それは君次第だ』
ミコは顔をいっそう青ざめさせ、銃を構えた。
『あのシステムは未完成よ。未完成のままで良いの!』
重なる2つの銃声。
ミコの弾は、男の背後で窓ガラスを割った。
男の弾は、ミコの胸に命中していた。


「君の父親は、もっと頑なだった。水エネルギーシステムの話をした途端に、銃を向けられた」
「ママもパパも……貴方が殺したの」
「正当防衛だ」
そう言って、男は声のトーンを変えた。
「さぁ、周波数を教えるんだ」
「知らない」
綾は首を振った。
「お願い。明かりを着けて」
「それは出来かねる。君の感覚を研ぎ澄ますにはこの暗さが必要だ」
「何を言ってるのか分からないわ」
「薬を使って、君の深層心理から引きずり出すんだよ。無意識下で覚えていることを全て」
綾の腕が掴まれた。
「やっ……!」
短い悲鳴があがった。
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