第1話

とある街の、とある路地裏。
壁に背をつけて通りを窺った次元は、小さく息を吐いて銃を納めた。
とりあえず追手はなし。首尾よくいったようだ。
懐から煙草を取り出して咥える。
しわくちゃになったマルボロ。
数時間前の乱闘で、新調したてのスーツも開封したばかりの煙草も揉みくちゃになった。
「ったく、ついてねぇ」
ライターを取り出し火をつけようとして、次元はピタリと動きを止めた。
背後に人の気配。
一瞬の間もおかず振り返って狙いをつけた銃口の先には、一人の少女が立っていた。
「……!」
少女の抱えていた紙袋が落ちて中身が転がる。
オレンジが路上に散らばった。
「ごめんなさい」
次元が口を開くより先に、少女は言った。
「次元に背後から声をかけようとするなんて、殺してくれって言ってるようなものね。本当、ごめんなさい」
次元はギクリとして、銃をしまいかけた手を止めた。
「まったく私ったら、考えなしにすぐ行動しちゃって……」
少女はぶつぶつ言いながらオレンジを拾っている。
「なぜ俺の名を知っている……?」
次元は再び銃口を少女に向けた。
「わぁ、こんな間近で本物のコンバットマグナムを見たのは初めて。結構ゴツいんだね、次元」
少女は感心した様子で、よく通る大声で言った。
とても眼前に銃を突きつけられている奴の台詞とは思えない。
「自分の置かれてる立場が分かってない様だな」
次元は少女の腕を掴むと、そのまま車に押し込んで走り去った。



とあるアジト。
「俺の個人情報を大声で喋りやがったんだ。よく響く路地裏でな」
「だからって連れてきちゃマズいでしょーが、次元ちゃん……」
次元の足元にちょこんと座っている少女を見下ろし、ルパンは眉をひそめた。
少女の顔には怯えも不安も浮かんでおらず、もの珍しそうにキョロキョロと辺りを見回している。
「犬猫じゃあるまいし、もといた所に棄ててらっしゃいって訳にもいかないしさぁ……」
それを聞いていた彼女はやおら立ち上がり、横目で次元を睨みつけた。
「やっぱり忘れてるのね」
「何だと?」
「私、綾よ」
「リョウ……?」
ルパンと五エ門は次元を振り返った。
敵は多いが知り合いは少ない次元は名前を聞いてふいに思い出し、少女を指さした。
「おい、嘘だろ……ミコの娘か!」
「やっと分かった?」
少女はフフンと笑った。
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