シャーロック・ホームズ
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落下の感覚に続いて、腰に鋭い衝撃。
「いたっ……!」
思わず声をあげてしまってから、ここが図書館だと思い出して恥ずかしくなった。
注目の的だよなぁと、腰をさすりながら顔を上げて、私は驚いた。
そこは図書館ではなかった。
石畳の道路を馬車が横切る。
それが行き過ぎると、スカート丈の長いドレスを着た女性、フロックコートを着てステッキを手にした男性らが通りを行き交う。
大きなミルク缶を抱えた青年、カゴに入ったマフィンを売り歩く少女。
私は声もなく、しばしその光景を見つめていた。
見覚えのある風景に、何度も目をこする。
「すごくロンドンっぽい……!」
思いっきり声に出してしまった。
ちょうど目の前を通り過ぎようとしていた中年のご婦人が、クスリと笑って立ち止まった。
すこしポッチャリぎみの、背の低い、優しそうなおば様だ。
「面白いことを言うのね、あなた」
「あっ、ごめんなさい。つい……」
私は苦笑しながら、スカートの埃を払って立ち上がる。
するとおば様は私のスカートを指さして目を丸くした。
「転んだの? 馬車にひかれた? スカートの下半分がちぎれてどこかにいっちゃってるじゃない」
私は自分の下半身を見下ろした。
いつも通りの制服のスカートだ。ひざ上丈にするためにウエストを幾重にも折っている。
プリーツのひだを崩さずにどこまでウエストをたくし上げられるか、ここがポイントだ。
「そんな恥ずかしい恰好じゃ歩けないでしょう。うちはすぐそこなの、寄っていらっしゃい」
勧められるまま、私はおば様のお宅にお邪魔した。
ソファに座ると、おば様は私の膝にひざ掛けをのせて足を隠した。
ようするに、足を出しているのは非常識だということだろうか。
「あの……変な事を訊いてもいいですか?」
「良いわよ」
おば様はクスリと笑った。
「私はマーサ・ハドソン。あなたは?」
「アオイといいます」
「そう、よろしくね。それで? 聞きたいことって何?」
「あの、ここはどこですか?」
ハドソンさんは一瞬動きを止め、それからコロコロと笑った。
「大丈夫かしら、頭でも打ったの? ここはロンドン、ベーカー街よ」
ロンドンって……外国じゃないか。
ヤバい。
何がどうなっているのかわからないけれど、これはかなり深刻だ。
パスポートを持っていない。
それに私は英語をしゃべれない……って、あれ?
「私、英語をしゃべってる……?」
「当たり前でしょう。でなきゃ、通じるわけないもの」
ハドソンさんはまた笑って言った。
私はずっと、日本語を話しているつもりだった。
でも、ハドソンさんには英語に聞こえているらしい。
「どうなってるの……?」
でもまぁ、ここはとりあえず、言葉が通じないよりマシと思う事にした。
もっと重要な質問がある。
「それじゃあ、今は何年ですか?」
「うふふ、1882年よ」
1882年のロンドン。
胸の鼓動が早くなっていく。
「大丈夫? なんだか顔色悪いわ」
「ちょっと……困ったことになりました……」
「なら、いい人を紹介してあげる。うちの下宿人なんだけどね。あなた変わってるから、きっと相談にのってくれるわ。あの人、変わった事が大好きなの」
ハドソンさんはにっこりほほ笑んだ。
「二階で待っていて、もうすぐ戻るはずだから。私は、お夕飯の準備をしなくちゃ」
「いたっ……!」
思わず声をあげてしまってから、ここが図書館だと思い出して恥ずかしくなった。
注目の的だよなぁと、腰をさすりながら顔を上げて、私は驚いた。
そこは図書館ではなかった。
石畳の道路を馬車が横切る。
それが行き過ぎると、スカート丈の長いドレスを着た女性、フロックコートを着てステッキを手にした男性らが通りを行き交う。
大きなミルク缶を抱えた青年、カゴに入ったマフィンを売り歩く少女。
私は声もなく、しばしその光景を見つめていた。
見覚えのある風景に、何度も目をこする。
「すごくロンドンっぽい……!」
思いっきり声に出してしまった。
ちょうど目の前を通り過ぎようとしていた中年のご婦人が、クスリと笑って立ち止まった。
すこしポッチャリぎみの、背の低い、優しそうなおば様だ。
「面白いことを言うのね、あなた」
「あっ、ごめんなさい。つい……」
私は苦笑しながら、スカートの埃を払って立ち上がる。
するとおば様は私のスカートを指さして目を丸くした。
「転んだの? 馬車にひかれた? スカートの下半分がちぎれてどこかにいっちゃってるじゃない」
私は自分の下半身を見下ろした。
いつも通りの制服のスカートだ。ひざ上丈にするためにウエストを幾重にも折っている。
プリーツのひだを崩さずにどこまでウエストをたくし上げられるか、ここがポイントだ。
「そんな恥ずかしい恰好じゃ歩けないでしょう。うちはすぐそこなの、寄っていらっしゃい」
勧められるまま、私はおば様のお宅にお邪魔した。
ソファに座ると、おば様は私の膝にひざ掛けをのせて足を隠した。
ようするに、足を出しているのは非常識だということだろうか。
「あの……変な事を訊いてもいいですか?」
「良いわよ」
おば様はクスリと笑った。
「私はマーサ・ハドソン。あなたは?」
「アオイといいます」
「そう、よろしくね。それで? 聞きたいことって何?」
「あの、ここはどこですか?」
ハドソンさんは一瞬動きを止め、それからコロコロと笑った。
「大丈夫かしら、頭でも打ったの? ここはロンドン、ベーカー街よ」
ロンドンって……外国じゃないか。
ヤバい。
何がどうなっているのかわからないけれど、これはかなり深刻だ。
パスポートを持っていない。
それに私は英語をしゃべれない……って、あれ?
「私、英語をしゃべってる……?」
「当たり前でしょう。でなきゃ、通じるわけないもの」
ハドソンさんはまた笑って言った。
私はずっと、日本語を話しているつもりだった。
でも、ハドソンさんには英語に聞こえているらしい。
「どうなってるの……?」
でもまぁ、ここはとりあえず、言葉が通じないよりマシと思う事にした。
もっと重要な質問がある。
「それじゃあ、今は何年ですか?」
「うふふ、1882年よ」
1882年のロンドン。
胸の鼓動が早くなっていく。
「大丈夫? なんだか顔色悪いわ」
「ちょっと……困ったことになりました……」
「なら、いい人を紹介してあげる。うちの下宿人なんだけどね。あなた変わってるから、きっと相談にのってくれるわ。あの人、変わった事が大好きなの」
ハドソンさんはにっこりほほ笑んだ。
「二階で待っていて、もうすぐ戻るはずだから。私は、お夕飯の準備をしなくちゃ」