風が吹けば
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久しぶりに221Bを訪ねたワトソンは、階段をあがる途中でホームズの声を耳にした。
「ワトソン! ワトソン!」
急くようなその声に緊張がはしる。
階段を一段抜かしで駆け上がり、居間へ飛び込んだ。
「なんだ、どうしたホームズ!」
ホームズはシリンダーとビーカーを手に実験器具の前に立っていた。
こちらを振り向きもせず言った。
「すまないがお茶を淹れてくれないか」
「…………」
足音で誰が来たのか分かったのだろうが、久しぶりに会う友人への第一声とはとても思えない。
唖然として立ち尽くしていると、ホームズは首だけをこちらにねじ向けた。
「聞こえなかったかね?」
「聞こえたよ! しっかりとね!」
ワトソンは大きくため息をついた。
「心配してソンしたよ。てっきり何か深刻な問題でも起きたかと……」
「深刻な問題?」
ホームズはキョトンとしてワトソンを見つめた。
それからビーカーの中身に視線を移す。
「あぁ、そうさ。かなり深刻なんだ。僕の理論ではこの沈殿物は……」
「そうじゃなくて! まったく、君ときたら……」
ホームズの言葉を遮ったワトソンは、やれやれと首を振りながらソファに腰を下ろした。
「僕は久しぶりに友に会いに来た、いわばお客様だぜ?」
「医者じゃなかったかね」
ビーカーを揺すりながらしれっと言ったホームズの背中を、ワトソンは横目でにらんだ。
「……僕をからかって楽しいかい?」
「まぁ、それなりにね」
「…………」
ワトソンは肩をすくめた。
「お茶ならアオイに淹れてもらえばいいじゃないか」
「君は相変わらず、観察がなっちゃいないね」
実験の結果が気に食わないのか、ホームズはしかめ面でビーカーを置いた。
そしてガウンの裾を翻しながら暖炉に歩み寄り、マントルピースの上からパイプを取り上げる。
「この部屋を見るだけでも、彼女が留守なのは明白だろう」
「そうか?」
ワトソンは室内を見回した。
放り出された新聞と手紙、何やらびっしりと書き込まれたメモ。テーブルに置かれた、とっかえひっかえしたのだとわかる大小様々なパイプたち。
「こんなに散らかしていたら、まず怒られる。新聞なんか、真っ先に窓から投げ捨てられるだろうな」
ホームズの言う通り確かに乱雑だが、その光景はワトソンが一緒に住んでいた頃と何ら変わらない。
「僕は見慣れているからなぁ。スリッパから煙草入れが出てきても驚かないよ」
「君はアオイがこの世界へ来てすぐ、結婚して出て行ってしまったものな。無理もない」
「ハドソンさんは?」
「おかみも今日は留守だ。出かけている」
「そりゃ珍しい。どこへ行ったんだい?」
「何でも僕に訊けばいいと思ってるだろ。たまには自分で考えたまえ」
ホームズの言いようにカチンときたワトソンは、彼に背中を向けてこう応えた。
「なんだ、ホームズも知らないのか」
すると案の定、ホームズはムッとした様子で立ち上がり、足早に階下へ降りていった。
ハドソン夫人の持ち場であるキッチンで、手がかりを探すのだろう。
ワトソンはこみ上げる笑いを噛み殺しながらホームズの後を追った。
「ワトソン! ワトソン!」
急くようなその声に緊張がはしる。
階段を一段抜かしで駆け上がり、居間へ飛び込んだ。
「なんだ、どうしたホームズ!」
ホームズはシリンダーとビーカーを手に実験器具の前に立っていた。
こちらを振り向きもせず言った。
「すまないがお茶を淹れてくれないか」
「…………」
足音で誰が来たのか分かったのだろうが、久しぶりに会う友人への第一声とはとても思えない。
唖然として立ち尽くしていると、ホームズは首だけをこちらにねじ向けた。
「聞こえなかったかね?」
「聞こえたよ! しっかりとね!」
ワトソンは大きくため息をついた。
「心配してソンしたよ。てっきり何か深刻な問題でも起きたかと……」
「深刻な問題?」
ホームズはキョトンとしてワトソンを見つめた。
それからビーカーの中身に視線を移す。
「あぁ、そうさ。かなり深刻なんだ。僕の理論ではこの沈殿物は……」
「そうじゃなくて! まったく、君ときたら……」
ホームズの言葉を遮ったワトソンは、やれやれと首を振りながらソファに腰を下ろした。
「僕は久しぶりに友に会いに来た、いわばお客様だぜ?」
「医者じゃなかったかね」
ビーカーを揺すりながらしれっと言ったホームズの背中を、ワトソンは横目でにらんだ。
「……僕をからかって楽しいかい?」
「まぁ、それなりにね」
「…………」
ワトソンは肩をすくめた。
「お茶ならアオイに淹れてもらえばいいじゃないか」
「君は相変わらず、観察がなっちゃいないね」
実験の結果が気に食わないのか、ホームズはしかめ面でビーカーを置いた。
そしてガウンの裾を翻しながら暖炉に歩み寄り、マントルピースの上からパイプを取り上げる。
「この部屋を見るだけでも、彼女が留守なのは明白だろう」
「そうか?」
ワトソンは室内を見回した。
放り出された新聞と手紙、何やらびっしりと書き込まれたメモ。テーブルに置かれた、とっかえひっかえしたのだとわかる大小様々なパイプたち。
「こんなに散らかしていたら、まず怒られる。新聞なんか、真っ先に窓から投げ捨てられるだろうな」
ホームズの言う通り確かに乱雑だが、その光景はワトソンが一緒に住んでいた頃と何ら変わらない。
「僕は見慣れているからなぁ。スリッパから煙草入れが出てきても驚かないよ」
「君はアオイがこの世界へ来てすぐ、結婚して出て行ってしまったものな。無理もない」
「ハドソンさんは?」
「おかみも今日は留守だ。出かけている」
「そりゃ珍しい。どこへ行ったんだい?」
「何でも僕に訊けばいいと思ってるだろ。たまには自分で考えたまえ」
ホームズの言いようにカチンときたワトソンは、彼に背中を向けてこう応えた。
「なんだ、ホームズも知らないのか」
すると案の定、ホームズはムッとした様子で立ち上がり、足早に階下へ降りていった。
ハドソン夫人の持ち場であるキッチンで、手がかりを探すのだろう。
ワトソンはこみ上げる笑いを噛み殺しながらホームズの後を追った。