握った手ははなさないから
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「ん……」
小さく呻いて、アオイが目を開けた。
「気分はどうだね」
うつろな目を向ける彼女に、ホームズはつとめて事務的に話しかけた。
「ワトソンが言うには風邪だそうだ。栄養をとってゆっくり休みたまえ」
「ホームズ、さん……」
アオイが何か言いたそうにしたが、彼女に背中を向け気づかないふりをした。
水差しからグラスに水を注ぎ、砂糖と塩を入れる。
「電解質と糖質で補液すると良い」
ベッドに引き返し、彼女の背中を手で支えて抱き起した。
手に伝わる体温がおそろしく熱いことにホームズは少しばかり動揺したが、顔には出さなかった。
アオイはグラスの水を口にして、顔をしかめた。
「不味い……」
現代でおなじみのイオン飲料とは程遠かった。
「少しずつこまめに飲みたまえ。後でハドソンさんにポリッジを持ってくるよう、頼んでおく」
「ポリッジ……?」
「オーツ麦だ」
簡潔に答えたが、アオイが怪訝そうにしているのを見て、
「つまり粥だ。オーツ麦の」
そう付け足した。
アオイは荒い息をしながら、ホームズをじっと見上げている。
彼女の顔が泣き出しそうに見えて、ホームズは狼狽えた。
急に出会ったばかりのような話し方をして、不自然だっただろうか。
もう少し優しく話した方が良かっただろうか。
「私は出て行く」
再度彼女に背を向けた。
そうだ。ワトソンが正しい。
彼女にかかわり過ぎてはいけないのだ。
「少し眠ると良い」
ドアへと足を踏み出した時、後ろから上着の裾を引っ張られた。
ゆっくり振り向くと、アオイが裾を握りしめている。
「いか、ないで……」
アオイの目から涙がこぼれた。
「1人にしないで……」
「アオイ……」
ホームズは途端に後悔した。
ワトソンの忠告を頭の中の引き出しから弾き飛ばす。
パッと身を翻してベッドサイドに跪くと、彼女の手を握りしめた。
「悪かった。僕が悪かった、アオイ。君はたった1人、この世界に放り出されたというのに」
「ホームズ、さん……」
ホームズはベッドサイドの椅子に腰かけると、アオイの手を優しく握った。
「さあ、ゆっくり休みたまえ。……ずっと、そばにいるから」
握ったこの手は、離さないから。
アオイは安心したように瞳を閉じた。
おわり
小さく呻いて、アオイが目を開けた。
「気分はどうだね」
うつろな目を向ける彼女に、ホームズはつとめて事務的に話しかけた。
「ワトソンが言うには風邪だそうだ。栄養をとってゆっくり休みたまえ」
「ホームズ、さん……」
アオイが何か言いたそうにしたが、彼女に背中を向け気づかないふりをした。
水差しからグラスに水を注ぎ、砂糖と塩を入れる。
「電解質と糖質で補液すると良い」
ベッドに引き返し、彼女の背中を手で支えて抱き起した。
手に伝わる体温がおそろしく熱いことにホームズは少しばかり動揺したが、顔には出さなかった。
アオイはグラスの水を口にして、顔をしかめた。
「不味い……」
現代でおなじみのイオン飲料とは程遠かった。
「少しずつこまめに飲みたまえ。後でハドソンさんにポリッジを持ってくるよう、頼んでおく」
「ポリッジ……?」
「オーツ麦だ」
簡潔に答えたが、アオイが怪訝そうにしているのを見て、
「つまり粥だ。オーツ麦の」
そう付け足した。
アオイは荒い息をしながら、ホームズをじっと見上げている。
彼女の顔が泣き出しそうに見えて、ホームズは狼狽えた。
急に出会ったばかりのような話し方をして、不自然だっただろうか。
もう少し優しく話した方が良かっただろうか。
「私は出て行く」
再度彼女に背を向けた。
そうだ。ワトソンが正しい。
彼女にかかわり過ぎてはいけないのだ。
「少し眠ると良い」
ドアへと足を踏み出した時、後ろから上着の裾を引っ張られた。
ゆっくり振り向くと、アオイが裾を握りしめている。
「いか、ないで……」
アオイの目から涙がこぼれた。
「1人にしないで……」
「アオイ……」
ホームズは途端に後悔した。
ワトソンの忠告を頭の中の引き出しから弾き飛ばす。
パッと身を翻してベッドサイドに跪くと、彼女の手を握りしめた。
「悪かった。僕が悪かった、アオイ。君はたった1人、この世界に放り出されたというのに」
「ホームズ、さん……」
ホームズはベッドサイドの椅子に腰かけると、アオイの手を優しく握った。
「さあ、ゆっくり休みたまえ。……ずっと、そばにいるから」
握ったこの手は、離さないから。
アオイは安心したように瞳を閉じた。
おわり