妙だな
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何かおかしい。
いつものようにリビングのソファに腰を下ろすと、すぐに気がついた。
テーブルの上には淹れたてのコーヒー、温かいトーストとオムレツ。
起きてくるのを見計らったように用意された朝食。
向かい側のソファに座ったルパンは、鉛筆を片手に新聞のクロスワードとにらめっこをしている。
「指揮。COMMAND……いやいや、4字だから、えぇと」
HELMじゃないかと思ったが、黙っていた。人の楽しみを奪うのはよろしくない。
五エ門はリビングの角に胡座をかいて、何やら瞑想中だ。
時々睡魔と戦っているらしく、何度か首が傾く。
いつも通りだ。
いつも通りなのだが、何か落ち着かない。
「どしたの、次元?」
向かい側に座ったルパンが、新聞から顔も上げずに訊いてきた。
「妙だな」
「妙?」ルパンが手を止めて顔をあげた。
「何が」
俺はため息をついた。
それが分かりゃ、妙とは言わねぇよ。
ルパンは鉛筆を放り出し、リビングを見回した。
それから、思い出したかのように言った。
「そういや、なんか静かだな」
それだ。俺の感じていた違和感は。
綾の歌声がしない。
「綾ちゃんがいない」
ルパンも気づいたらしい。
「さっきまでいたのにな」
そりゃそうだろう。
俺はテーブルの上の、まだうっすら湯気をたてている朝食を見やった。
綾がハミングしながらコーヒーを淹れる姿が目に浮かぶ。
そうだ。
彼女の歌声は、いつの間にか俺達の生活の一部になっていたらしい。
それがなければ違和感を感じるほど、すっかり俺達の日々に溶け込んで。
「あれ? 皆でキョロキョロして、何か探し物?」
洗濯カゴを両手で抱えた綾が、庭の方から声をかけてきた。
「綾ちゃん。どこ行ってたの」
綾はキョトンとして大きな目をルパンに向けた。
「どこにも行ってないよ。洗濯物取りに行っただけ。洗濯機の中で絡まっちゃって」
「あー、そー」
なんだそんな事か、という感じの相槌をうつルパンに、綾は小首をかしげて肩をすくめた。
「変なルパン」
それから気を取り直して地面にカゴを下ろし、洗濯物を干しはじめる。
ほどなく綾のハミングが聞こえてきて、ルパンと俺はソファに戻り、五エ門は部屋の角で目を閉じた。
いつもと同じ、穏やかな朝がやってきた。
きみが歌うクロッカスの歌も 新しき家具の一つに教えんとする 寺山修司
おわり
いつものようにリビングのソファに腰を下ろすと、すぐに気がついた。
テーブルの上には淹れたてのコーヒー、温かいトーストとオムレツ。
起きてくるのを見計らったように用意された朝食。
向かい側のソファに座ったルパンは、鉛筆を片手に新聞のクロスワードとにらめっこをしている。
「指揮。COMMAND……いやいや、4字だから、えぇと」
HELMじゃないかと思ったが、黙っていた。人の楽しみを奪うのはよろしくない。
五エ門はリビングの角に胡座をかいて、何やら瞑想中だ。
時々睡魔と戦っているらしく、何度か首が傾く。
いつも通りだ。
いつも通りなのだが、何か落ち着かない。
「どしたの、次元?」
向かい側に座ったルパンが、新聞から顔も上げずに訊いてきた。
「妙だな」
「妙?」ルパンが手を止めて顔をあげた。
「何が」
俺はため息をついた。
それが分かりゃ、妙とは言わねぇよ。
ルパンは鉛筆を放り出し、リビングを見回した。
それから、思い出したかのように言った。
「そういや、なんか静かだな」
それだ。俺の感じていた違和感は。
綾の歌声がしない。
「綾ちゃんがいない」
ルパンも気づいたらしい。
「さっきまでいたのにな」
そりゃそうだろう。
俺はテーブルの上の、まだうっすら湯気をたてている朝食を見やった。
綾がハミングしながらコーヒーを淹れる姿が目に浮かぶ。
そうだ。
彼女の歌声は、いつの間にか俺達の生活の一部になっていたらしい。
それがなければ違和感を感じるほど、すっかり俺達の日々に溶け込んで。
「あれ? 皆でキョロキョロして、何か探し物?」
洗濯カゴを両手で抱えた綾が、庭の方から声をかけてきた。
「綾ちゃん。どこ行ってたの」
綾はキョトンとして大きな目をルパンに向けた。
「どこにも行ってないよ。洗濯物取りに行っただけ。洗濯機の中で絡まっちゃって」
「あー、そー」
なんだそんな事か、という感じの相槌をうつルパンに、綾は小首をかしげて肩をすくめた。
「変なルパン」
それから気を取り直して地面にカゴを下ろし、洗濯物を干しはじめる。
ほどなく綾のハミングが聞こえてきて、ルパンと俺はソファに戻り、五エ門は部屋の角で目を閉じた。
いつもと同じ、穏やかな朝がやってきた。
きみが歌うクロッカスの歌も 新しき家具の一つに教えんとする 寺山修司
おわり