彼女は強い。確かに強い。

別に腕力とか、そういう話ではない。

『精神力』というか『思いこんだら命がけ』というか、とにかく2人の間の障害なんてまるで気にしちゃいない。

『好きだから一緒にいるの。離れないわよ。世の中で一番強いのはね、愛よ、愛！』

こっちの気持ちすら、お構いなしだった。



「俺は普段頼みごとなんかしないタチなんだが、お前に折り入って頼みがある」

俺は静かな口調で告げた。

「もう俺に構わないでくれ」

傷めるくらいなら、突き放す。

それを、やっと決心した。

二人の間を風が吹きぬける。



彼女は靡く髪を片手で押さえたまま、じっと黙っていた。

まるで俺の言葉が染み込むまでに時間がかかるとでもいうように、ただ立ち尽くしていた。

「それじゃあ、」

やがて彼女がため息まじりに口を開いた。

「私の質問に答えて。嘘をつかずに答えてくれたら、あなたの頼みをきいてあげてもいい」

「何だ」

「私のこと好き？」

彼女は真剣なまなざしで俺を見上げている。

俺もじっと彼女の澄んだ瞳を見つめ返した。