バタバタとリビングに綾が駆け込んできた。

その足音に、ルパンたちはそれぞれ手を止めて顔を上げる。

「どうした、綾」

綾はそれには答えず、キッチンに飛び込んでコップに水を汲んでいる。

3人は、綾がひといきにコップを空にするのをカウンター越しに黙って見つめた。

しばしの沈黙。

「……ひっく！」

息をのむような音が綾の口から飛び出した。

「なんだ、しゃっくりか？」

「そう。止まんな……っく、くって」

綾は片手を口に当てた。

恥ずかしそうに顔を赤らめている。

「そのうち止まるだろう」

五右　エ門は無理に止める必要はない、と言った。

綾はホッとした顔で頷く。

その時、次元はふとあることを思い出した。

意地悪そうにニヤッと笑う。

「知ってるか？ しゃっくりを100回すると死んじまうんだと」

「ええぇっ！」

綾は焦った。

目が泳ぎ、みるみるうちに顔が青ざめていく。

「どうしよう。私、死んじゃ……う、っく」

綾は悲痛な面持ちで次元を見上げた。

「遺言書、書かなきゃ。ひっく。財産は全部、次元にあげるからね」

「財産なんかねぇだろうが」

「あるよ。ひっく。パシフィカ出版のホームズ全集と『根性』って書いてある置物……ひっく。お土産にもらったペナントと大洋ホエールズの旗……」

「そんなモンいるか！」

ロクでもない物を押しつけられそうになった次元は、慌ててルパンに訊ねた。

「なんかねーのか、しゃっくりを止める方法」

「うーん、民間療法なら色々あるけどねぇ」

「このさい何でもいい。試してみようぜ」