次元は車の中から、通りの向こう側にあるカフェテラスを観察していた。

正確には、カフェテラスで寛いでいる1人の男を。

車はレンタカーだから相手に気取られる心配はない。

「本当にヤツは動くんだろうな」

「間違いないって」

助手席の綾は顔から双眼鏡を離してチラリと次元を見た。

「ルパンから聞いたんだもん」

「あいつがよく教えてくれたな。お前、代わりに何をやったんだ？　肌のひとつも見せてやったのか」

「そんな事するわけないでしょ」

綾はツンとそっぽを向く。

次元は綾のブラウスの胸元に視線を走らせ、ニヤリと笑った。

「まぁ、そうだよな。発展途上国の山脈なんて見てもつまんないもんな」

「サイテー」

綾はピシャリと次元の腕を叩いた。

「私が知ったところで何もできないと思ったんでしょ。それが甘いってのよ」

綾はキラリと瞳を煌めかせて笑みを浮かべた。

「絶対、アレを取り返して見せるわよ」

「あぁ」

二人はどちらともなく頷きあった。

「おっ、動き出した」

次元が呟いた。

綾は双眼鏡をのぞいて確認する。

男は自分の車に乗り込み、ゆっくりと走り出した。

次元たちの車もその後を追う。