彼女の方も、突然現れた俺に驚いているようだった。

助けを呼ばれたら困る。

俺はできるだけ愛想の良い笑顔を作った。

「ねぇ。君さ、このビルの出口、知らない？」

すぐに逃げられるように、その場で足踏みをしながら訊ねた。

少女の視線が俺の頭から足もとへと移動し、そしてまた顔へと戻ってくる。

「知ってる。ここは私の庭みたいなものだから」

「そ、よかった。そんじゃ教えてもらえる？」

「……一緒に連れてってくれる？」

「えっ？」

俺は戸惑った。

彼女の真意が分からない。

ここが自分の庭だと言うのなら、彼女はここの社員か何かだろう。

連れて行ってくれと見ず知らずの男に頼む必要はないはずだ。

俺としては、堅気の一般人に迷惑をかけたくない一方で、かけられたくもない。

「さいなら」

ここは出会わなかった事にしよう。

そう思って背中を向けたとたん、小さなつぶやきが聞こえた。

「お願い、助けて……」

声が震えていた。

「…………」

俺は結局、彼女の腕をとって走り出した。