雪のことかよ
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綾が風邪をひいた。
取り敢えずベッドに寝かせて体温計を口に突っ込み、キッチンへ行った。
ミネラルウォーターを手に戻ってきてみると、ベッドはもぬけの殻。
驚いて部屋を見回すと、綾は窓にペッタリと額をくっつけて、外を眺めているのだった。
何をやっているんだか……。
「おい、綾」
声をかければ、彼女は真っ赤な顔で振り向いた。
そして、体温計を咥えたまま言う。
「ゆひら!」
何だって?
ピピッ。
ちょうど体温計が鳴った。
綾に歩み寄り、ふと窓の外を見やる。
あぁ、雪のことかよ。
いつの間にか、粉雪が降り出していた。
綾の口から体温計を取りあげる。
38度3分。
「まだ高ぇじゃねぇか」
「雪、積もるかなぁ」
無視かよ。
雪がそんなに珍しいかね。
そんなにはしゃいで……
窓にくっつけていたせいで、綾の額は熱で紅潮した顔よりも赤い。
まるで子供だ。
「ね、ね、次元。積もったら雪だるま作ろう?」
呆れた。
とても高熱を出している奴の言うこととは思えない。
「それなら、積もるまでにさっさと風邪を治すんだな」
彼女を抱えてベッドに運ぶ。
身体がものすごく熱い。
「次元……」
「あぁ?」
「なんか、しんどーい」
綾はグッタリと俺に体重を預けた。
ようやく病人だということを思い出したらしい。
ったく、世話の焼ける。
「大人しく寝てろ」
「つまんない……」
ベッドに転がすと、綾は不満そうに口をとがらせた。
こいつは……。
おとなしくさせるには、少々脅しが必要らしい。
赤くなっているその額にヒエピタを貼りつけ、低い声で言った。
「大人しく寝てねぇと、襲うぞ」
「ひゃっ……!」
一瞬にして顔が真っ赤になった。
「冗談だ、ばーか」
そう言って髪を撫でると、彼女は。
「なーんだ、残念」
ちょっと笑って、目を閉じた。
すぐに寝息をたてはじめる。
窓の外を見やれば、本格的に降り出した雪。
積もりそうだな。
真っ赤な手袋とマフラーをして、
嬉しそうにせっせと雪だるまを作る綾を想像しながら、俺は少し笑った。
体温計くわえて窓に額つけ ゆひらと騒ぐ雪のことかよ 穂村弘
おわり
取り敢えずベッドに寝かせて体温計を口に突っ込み、キッチンへ行った。
ミネラルウォーターを手に戻ってきてみると、ベッドはもぬけの殻。
驚いて部屋を見回すと、綾は窓にペッタリと額をくっつけて、外を眺めているのだった。
何をやっているんだか……。
「おい、綾」
声をかければ、彼女は真っ赤な顔で振り向いた。
そして、体温計を咥えたまま言う。
「ゆひら!」
何だって?
ピピッ。
ちょうど体温計が鳴った。
綾に歩み寄り、ふと窓の外を見やる。
あぁ、雪のことかよ。
いつの間にか、粉雪が降り出していた。
綾の口から体温計を取りあげる。
38度3分。
「まだ高ぇじゃねぇか」
「雪、積もるかなぁ」
無視かよ。
雪がそんなに珍しいかね。
そんなにはしゃいで……
窓にくっつけていたせいで、綾の額は熱で紅潮した顔よりも赤い。
まるで子供だ。
「ね、ね、次元。積もったら雪だるま作ろう?」
呆れた。
とても高熱を出している奴の言うこととは思えない。
「それなら、積もるまでにさっさと風邪を治すんだな」
彼女を抱えてベッドに運ぶ。
身体がものすごく熱い。
「次元……」
「あぁ?」
「なんか、しんどーい」
綾はグッタリと俺に体重を預けた。
ようやく病人だということを思い出したらしい。
ったく、世話の焼ける。
「大人しく寝てろ」
「つまんない……」
ベッドに転がすと、綾は不満そうに口をとがらせた。
こいつは……。
おとなしくさせるには、少々脅しが必要らしい。
赤くなっているその額にヒエピタを貼りつけ、低い声で言った。
「大人しく寝てねぇと、襲うぞ」
「ひゃっ……!」
一瞬にして顔が真っ赤になった。
「冗談だ、ばーか」
そう言って髪を撫でると、彼女は。
「なーんだ、残念」
ちょっと笑って、目を閉じた。
すぐに寝息をたてはじめる。
窓の外を見やれば、本格的に降り出した雪。
積もりそうだな。
真っ赤な手袋とマフラーをして、
嬉しそうにせっせと雪だるまを作る綾を想像しながら、俺は少し笑った。
体温計くわえて窓に額つけ ゆひらと騒ぐ雪のことかよ 穂村弘
おわり