他人の意見は不条理である
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「はぁ……」
ヤカンを火にかけ、綾は何度目かのため息をついた。
「幸せが逃げるぞ」
いつの間にか五エ門が隣に立っていた。
「何それ」
「先程から、ため息をついてばかりだ」
「……逃げると言うか、もう逃したかもしれない」
あーもう、と呟きながら、綾はズルズルとしゃがみ込んだ。
五エ門は無言で急須に茶葉を入れ、それから言った。
「ならば、追えばよい」
「は?」
綾は顔を上げて五エ門を見た。
彼はキョロキョロと何かを探している。
綾がシンクの上の吊り戸棚を指さすと、彼は戸棚を開けて自分の湯呑みを取り出した。
ヤカンが甲高い音を立てて沸騰したことを告げる。
「逃げたなら、追えばよい」
「……恋の話なんだけど」
「承知している」
「…………」
美味しそうにお茶を啜る五エ門を見つめながら、綾は内心でため息をついた。
この人が恋というものをどれほど理解しているか、正直あやしい。
(ま、相談する相手がいないから仕方ないけど)
「善く戦うものは先ず勝つべからざるを為して、以て敵の勝つべきを待つ」
五エ門が静かに言った。
「うわ、出た。五エ門先生のオハコ」
綾は眉根を寄せて顔を顰める。
「よく戦う者は……何ですって?」
「まず先に敵から攻められてもいいように守りを固めた上で、敵が弱みを露呈し、攻めれば勝てるような状況になるのを待て、ということだ。負けないよう守りを固めることは自分次第だが、勝つかどうかは敵次第」
「…………」
「よく分からないという顔だな」
五エ門は笑った。
「綾は来たる日に備えておればいい」
「来たる日って、何よ」
気恥ずかしさに頬を染めながら綾は五エ門を見上げた。
「ルパンのことだ、そのうち焦れて事を起こすだろう。望みとあらば、某が一肌脱いでやっても良い」
「えっ、ホント⁉︎」
綾が目を輝かせた瞬間、五エ門が無造作に綾の腕を掴む。
引かれた勢いのまま、綾は五エ門の胸へと倒れ込んだ。
「ち、ちょっと! 五エ門⁉︎」
抗議の声を上げて見上げれば、五エ門は表情ひとつ変えずにリビングの方へ目を向けている。
「ちょうどルパンの来る気配がしたのでな。奴を慌てさせようかと」
「何それ、意味わかんな……」
そのとき。
「綾ー? コーヒー欲しいんだけどー」
間延びした声が廊下の方から近づいてくる。
「あわわっ……!」
綾の顔に焦りの色が浮かぶ。
新たな受難の降りかかる5秒前────
終わり
ヤカンを火にかけ、綾は何度目かのため息をついた。
「幸せが逃げるぞ」
いつの間にか五エ門が隣に立っていた。
「何それ」
「先程から、ため息をついてばかりだ」
「……逃げると言うか、もう逃したかもしれない」
あーもう、と呟きながら、綾はズルズルとしゃがみ込んだ。
五エ門は無言で急須に茶葉を入れ、それから言った。
「ならば、追えばよい」
「は?」
綾は顔を上げて五エ門を見た。
彼はキョロキョロと何かを探している。
綾がシンクの上の吊り戸棚を指さすと、彼は戸棚を開けて自分の湯呑みを取り出した。
ヤカンが甲高い音を立てて沸騰したことを告げる。
「逃げたなら、追えばよい」
「……恋の話なんだけど」
「承知している」
「…………」
美味しそうにお茶を啜る五エ門を見つめながら、綾は内心でため息をついた。
この人が恋というものをどれほど理解しているか、正直あやしい。
(ま、相談する相手がいないから仕方ないけど)
「善く戦うものは先ず勝つべからざるを為して、以て敵の勝つべきを待つ」
五エ門が静かに言った。
「うわ、出た。五エ門先生のオハコ」
綾は眉根を寄せて顔を顰める。
「よく戦う者は……何ですって?」
「まず先に敵から攻められてもいいように守りを固めた上で、敵が弱みを露呈し、攻めれば勝てるような状況になるのを待て、ということだ。負けないよう守りを固めることは自分次第だが、勝つかどうかは敵次第」
「…………」
「よく分からないという顔だな」
五エ門は笑った。
「綾は来たる日に備えておればいい」
「来たる日って、何よ」
気恥ずかしさに頬を染めながら綾は五エ門を見上げた。
「ルパンのことだ、そのうち焦れて事を起こすだろう。望みとあらば、某が一肌脱いでやっても良い」
「えっ、ホント⁉︎」
綾が目を輝かせた瞬間、五エ門が無造作に綾の腕を掴む。
引かれた勢いのまま、綾は五エ門の胸へと倒れ込んだ。
「ち、ちょっと! 五エ門⁉︎」
抗議の声を上げて見上げれば、五エ門は表情ひとつ変えずにリビングの方へ目を向けている。
「ちょうどルパンの来る気配がしたのでな。奴を慌てさせようかと」
「何それ、意味わかんな……」
そのとき。
「綾ー? コーヒー欲しいんだけどー」
間延びした声が廊下の方から近づいてくる。
「あわわっ……!」
綾の顔に焦りの色が浮かぶ。
新たな受難の降りかかる5秒前────
終わり