次元と綾はリビングのソファに並んで座っていた。

テレビの音が静かに流れる中、綾は何度も次元の様子を窺っている。

（何か企んでやがるな……）

と次元は思ったが、気づかないふりをした。

「次元、私のことどう思ってるの？」

綾が突然、真顔で問いかけてきた。

（そらきた）と次元は思った。

これは下手に答えると面倒くさいことになるやつだ。

次元は冷静を装いながら言葉を選ぶ。

「どう思ってるか……か」

次元は考えながら答える。

「まぁ、面倒なこともあるけど、嫌いじゃないぜ」

その答えに、綾は少し不満そうに眉をひそめた。

「それだけ？」

「それだけだ」

次元は軽く肩をすくめて、平然を装う。

「素直じゃないなぁ」

綾は頬を膨らませる。

次元は少し焦りながらも、反論の言葉を口にした。

「どういう意味だ。俺は素直だぜ」

その時、綾が次元の頬に軽くキスをした。

不意打ちだった。

次元は驚き、思わず腰を浮かした。

頬にじんわりと温かさが広がる。

思わず手でその場所に触れた。

「なんだ、いきなり」

次元は少しだけずれて座り直す。

しかし、綾はまた次元にくっついてくる。

「照れてる？」

「照れてない」

次元はすぐに否定するが、その顔は完全に赤くなっていた。

「本当、素直じゃないなぁ」

綾がからかうように言ったが、次元は少し冷静さを取り戻し、目線を避けながら言う。

「ふざけてるのか」

綾はその言葉を聞いて、少し考えた後に笑顔を浮かべる。

「じゃあ、仕返しをどうぞ？」

綾が自分の頬を指差して、イタズラっぽく笑っている。

次元はしばらく黙り込み、心の中で何度も『絶対にしてやらない』と誓ってみるが、顔が火照ってまともに綾を見られない。

「……お前は、すぐそうやって俺を困らせる」

次元は低い声で言ったが、その声にはほんの少しだけ甘さが混じっていた。

「困ってる次元も好きだよ」

綾は嬉しそうに微笑みながら次元の肩に寄りかかった。

次元はその重みを感じながらため息をつく。

「お前のそういうところ、本当に……」

その瞬間、綾はにっこりと笑って次元の顔を仰ぎ見た。

「好き？」

次元は少しだけ目を逸らして、それでもしっかりと答える。

「……好きだよ、バカ」

綾はその言葉に満足した様子で、うれしそうに次元の肩にもたれながら言った。

「ふふ。素直になった」

次元は顔を赤くしながらも、またテレビに目を向けたふりをしながら、ちょっと笑って言った。

「うるさい、バカ」



終わり