「ちょっと。どうしたのよ、綾。また恋愛相談？」

不二子は困惑顔で訊ねた。

「次元との喧嘩はもう解決したんでしょ？　今度ルパンが横ヤリ入れてきたら、五エ門じゃなくて私に言いなさいよ。人の恋路を邪魔するあんな奴は、馬で蹴り飛ばすから」

そう言ってイタズラっぽく笑う不二子は、ルパン達には普段通りに見えただろう。

でも綾は違う。

「不二子はいつも自力作善だね」

綾はすこし笑って、

「だから心配になるんだ」と言った。

「心配？」

「今日の不二子、いつもと違う。何かあったんでしょ」

「……鋭い子ね」

不二子はため息をついた。

この時期になると、ふとした瞬間に思い出す。

強引で不器用な愛し方しか出来なかったあの男を。

引金をひくことでケリをつけた過去を。

綾は知らない。だから何も言わない。

不二子は、そんな彼女が有り難かった。

「ね、不二子。ドライブに行こう」

思いついたように綾が言った。

「私、車のキーを取ってくる！」

「運転できるの？」

「まかせて！」

綾はアジトに取って返し、人差し指に引っかけたキーをクルクル回しながら戻ってきた。

ガレージから出てきたのはサファイア色のインフィニティFX。

彼女の容姿に似合わず随分とクールだ。

「行こう、不二子。私が忘れさせてあげる！」

「どこで覚えたの、そんな殺し文句」

不二子は笑って車に乗り込んだ。

「しっかりシートベルト締めてね。行くわよ！」

楽しそうな声を合図に綾がアクセルを踏むとタイヤの激しい回転音が響き、衝撃で身体が仰け反った。

「えっ、ちょっ……！」

安全運転をという言葉は声にならなかった。

窓の外の景色が一瞬にして後ろへ流れていく。

速度メーターが激しく右へと振れている。

この子の運転は一体どうなっているのだろう。

いくらなんでも常軌を逸している。

まるでモナコGPだ。

顔をひきつらせながら、不二子は命綱であるシートベルトを握りしめた。