数日後。

綾が朝食を食べ終えたところに次元が帰ってきた。

ポケットに手を突っ込み、やや背中を丸めながらリビングへ入ってくるのを、綾はそっと眺める。

（やっぱり好きだな）

改めて思う。

でも、もう終わりにしなければならないのだ。

綾は意を決して、次元の前に立ちはだかった。

「よぅ、綾。おはようさん」

笑って髪に触れようとした次元の手を綾は無言ではたき落とす。

ちょうど居合わせた五エ門は目を丸くして固まった。

次元は行き場をなくした手を宙に彷徨わせたまま、ポカンとしている。

「他の女に触れた手で私に触らないで」

綾は無表情のまま冷たく言い放った。

「綾、何か勘違いしてやしねぇか。俺は……」

「誤解も何もないでしょ、香水の匂いをぷんぷんさせて。さぞ楽しかったようで、ヨカッタデスネー」

「おいっ、聞けよ。俺は次の仕事のために……」

「問答無用」

綾は彼の言葉を遮った。

もちろん、綾は彼がルパンに頼まれた情報を得るために出かけていた事は知っているが、知らないフリをする。

「あーやだやだ、男ってみんな『仕事』が免罪符になると思ってるんだから」

（一緒にするな）

と五エ門は不満に思ったが、賢明なことに黙っていた。

「最低。幻滅したわ」

「お前……俺の言うことが信じられねぇってのか」

次元の目が怒りで鋭くなるのが綾にも分かった。

「何を信じろって言うのよ。もう、次元なんかとこれ以上……」

「俺だって誰がお前と付き合うかよ！」

次元が叫んだ。

シン、と部屋が静まり返る。

綾は小さく息をつくと、真っ直ぐに次元を見た。

（次元、大好きだよ）

「……こっちこそ、願い下げよ」

吐き捨てるように言って、綾は足早にリビングを立ち去った。