シャーロック・ホームズ

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ヒロイン

「寺院にもこんな所があるんですね」

暗く狭い通路を進みながら、が言った。心細いのか、ホームズのシャツを握っている。

「公開するには、保全や警備の問題で色々と都合が悪いんだろう。さて、着いたぞ」

つきあたりの木製のドアを開く。ギギ、と軋む音がした。
部屋の中央に大きな木のテーブルがあり、その周りにレストレードと、見知らぬ東洋人が立っていた。おそらくレストレードの言っていたICPOの警部だろう。

「ホームズ! もう嗅ぎつけたのね」

レストレードが顔をしかめた。

「ソフィか。連絡の手間が省けた」ホームズはレストレードに歩み寄った。
「俺に知られたくなかったなら、通路に靴跡を残さないことだ。誰も踏み入れない場所に真新しい靴跡があったら、すぐ気づくぞ……で、何があった?」
「レストレード君。どなたですかな」

レストレードの隣から東洋人が口を挟んだ。
確固不抜な精神をそのまま体現したような顔つき。鋭い観察眼を向けられ、は思わずホームズの背中に隠れた。
ホームズはさっと手を差し出して握手を求めた。

「シャーロック・ホームズ。探偵です」
「おぉ、あなたが! いや、お噂は聞いとります! ICPOの銭形です」

銭形警部は笑顔になってホームズの手を握った。握って、嬉しそうにブンブン振った。
噂って、過去の栄光でしょ───というレストレードの視線を、ホームズは無視した。

「それで銭形警部。何かあったんでしょうか……ウェストミンスター寺院の、こんな……奥深くで」

ホームズは部屋中を見回しながら尋ねた。
部屋の壁際には天井までいっぱいに棚が設えられており、古い燭台や端の欠けた杯、書物などが置かれている。

「手帳が盗まれたの」レストレードが口を開いた。
「研究の為に写しを取ってあったのをコピーしてもらった。これよ」

手渡された分厚い紙束を受け取って、ホームズは机の上に広げた。カメラで手帳を上から撮影したもののようだ。

「紙質も筆跡もバラバラ。おそらく書かれた年代も筆者もバラバラな物を無理矢理一冊に纏めた……そんな感じか。年代物のようだが、なぜここに?」
「昔からここにあったそうよ。僧侶の私物だったと言われているけど、誰のものだったのかはわからないって」
「内容は……死海文書、聖ブレンダンの日記、ナポレオンの辞書、アルマタルグラフ……アルマタルグラフって何だ」

はホームズの後ろからひょいと顔を出してテーブルに広げられた紙を眺めた。

「アルマタルグラフは妖精王アルマの魔法書です。ある時その魔法書が何者かに盗まれて、魔法が使えなくなってしまったから、この世界から妖精が消えたと言われています」
「つまり、これらは都市伝説とかそういう類の物って訳か」

は頷いた。

「存在が確認されている物もいくつかありますけど、概ねホームズさんの言う通りです」
「これは? 掠れて読めなくなってるけど」

レストレードが1枚の紙を指さした。

「RAV……E、かしら。その後は読めないわね」
「ravel? raven? ravenous?」

ホームズは思いつく単語を並べた。

「うわ言、カラス、掠奪…… そんな伝説、聞いたことないですよね」

も首を傾げる。

「しかし、何かあるはずだ」ホームズがきっぱりと言った。
「奴がこれを盗んだからには、何かがある」
「奴って、盗んだんだ犯人の見当がついているの?」

レストレードがテーブルに両手をついて身を乗り出した。

「奴しかおらん」

銭形が言い、ホームズも頷く。

「えぇ。ルパン三世、奴しかいません」

はホームズを見上げた。
彼は目を爛々とさせ、いきいきとした顔をしていた。

(あぁ、あの目だ)

かつての活躍を思い出して、の胸は高鳴るのだった。



おわり
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