three
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私はただ茫然と立ち尽くしていた。
額が熱い。心臓がドキドキしている。
まだキスの感触が鮮明に残っていて、思わず抱き寄せられた時のことを反芻してしまった。
どうしよう、変な顔してなかっただろうか。
地面を蹴る音がこちらへ向かってくるのが聞こえて、私は反射的にそちらを向いた。
「スミスさん。ルパンは」
「逃げられた」
息を切らしながら、彼はそう言って額の汗を拭った。
「怪我はないか?」
「あ……はい……」と、私は曖昧に返事をする。
とにかく家に帰ろう。
ここにいると、何度も反芻してしまいそうだ。
私は鍵を出そうとカバンを探った。
「スミスさん。これ……」
カバンに入っていた、見覚えのない紙を引っ張り出す。
それは名刺大のカードで、見覚えのあるルパン三世のロゴマークとともに、『Rare stone Museumにて一番希少なお宝を頂戴する』という一文が記されていた。
「まずいな。早く捕えなければ……」
スミスは携帯様の端末を取り出した。ジョンに連絡するのだろう。
「なぜそんなに焦ってるんですか?」
私は訊ねた。
「この世界に彼が存在することが、そんなにまずいことなんですか?」
「他の世界からどうやって来たのかを考えろ。時空をねじ曲げて、本来なら行き来できない世界を行き来できるようにしたんだぞ」
「……ルパンが?」
「ルパンが」
スミスが説明する。
「メカニズムは解明されていないが、ごく稀に発生する事例だ。強く願うあまり、本来は異物が引き起こすはずの時空の歪みを生み出して、他の世界にトリップしたり、欲しい物を手に入れたり」
「つまりルパンは、逃げ出したいと強く願うあまりこの世界にやってきた、と」
「端的に言えばそうだ。こちら側に来てしまえば彼は異物だ、正真正銘、時空の歪みを生む存在になる。本人に自覚はないだろうがね」
「彼を受け入れた世界が辻褄を合わせようとすると、それが歪みになるんですよね。歪みが起こるとどうなるんですか?」
「世界が終わる」
「えっ……」
「世界が辻褄を合わせられなくなったら、その世界は壊れてしまう」
世界が壊れる ────
思わず息を飲んだ。
スミスの声色には哀愁が滲んでいた。昔、何かがあったのかもしれない。
「歪みが続けば、いずれその影響を抑えきれなくなる」
それはつまり、破滅へのカウントダウンだ。
「ルパンはそのことを知ってるんですか?」
「知らんだろうな。知っていれば好き放題やるだろう。世界が崩壊したって、自分は元の世界に帰ればいいんだからな」
どこから現れたのか、いつの間にか背後に立っていたジョンが言った。
「……だから、ルパンには知られる訳にはいかないんだ」
彼はスミスからルパンの予告状を受け取り、一読すると胸ポケットに納めた。
「こちらの読み通り、ルパンは宝石展を狙うつもりだ。そこで彼を捕まえるとしよう」
額が熱い。心臓がドキドキしている。
まだキスの感触が鮮明に残っていて、思わず抱き寄せられた時のことを反芻してしまった。
どうしよう、変な顔してなかっただろうか。
地面を蹴る音がこちらへ向かってくるのが聞こえて、私は反射的にそちらを向いた。
「スミスさん。ルパンは」
「逃げられた」
息を切らしながら、彼はそう言って額の汗を拭った。
「怪我はないか?」
「あ……はい……」と、私は曖昧に返事をする。
とにかく家に帰ろう。
ここにいると、何度も反芻してしまいそうだ。
私は鍵を出そうとカバンを探った。
「スミスさん。これ……」
カバンに入っていた、見覚えのない紙を引っ張り出す。
それは名刺大のカードで、見覚えのあるルパン三世のロゴマークとともに、『Rare stone Museumにて一番希少なお宝を頂戴する』という一文が記されていた。
「まずいな。早く捕えなければ……」
スミスは携帯様の端末を取り出した。ジョンに連絡するのだろう。
「なぜそんなに焦ってるんですか?」
私は訊ねた。
「この世界に彼が存在することが、そんなにまずいことなんですか?」
「他の世界からどうやって来たのかを考えろ。時空をねじ曲げて、本来なら行き来できない世界を行き来できるようにしたんだぞ」
「……ルパンが?」
「ルパンが」
スミスが説明する。
「メカニズムは解明されていないが、ごく稀に発生する事例だ。強く願うあまり、本来は異物が引き起こすはずの時空の歪みを生み出して、他の世界にトリップしたり、欲しい物を手に入れたり」
「つまりルパンは、逃げ出したいと強く願うあまりこの世界にやってきた、と」
「端的に言えばそうだ。こちら側に来てしまえば彼は異物だ、正真正銘、時空の歪みを生む存在になる。本人に自覚はないだろうがね」
「彼を受け入れた世界が辻褄を合わせようとすると、それが歪みになるんですよね。歪みが起こるとどうなるんですか?」
「世界が終わる」
「えっ……」
「世界が辻褄を合わせられなくなったら、その世界は壊れてしまう」
世界が壊れる ────
思わず息を飲んだ。
スミスの声色には哀愁が滲んでいた。昔、何かがあったのかもしれない。
「歪みが続けば、いずれその影響を抑えきれなくなる」
それはつまり、破滅へのカウントダウンだ。
「ルパンはそのことを知ってるんですか?」
「知らんだろうな。知っていれば好き放題やるだろう。世界が崩壊したって、自分は元の世界に帰ればいいんだからな」
どこから現れたのか、いつの間にか背後に立っていたジョンが言った。
「……だから、ルパンには知られる訳にはいかないんだ」
彼はスミスからルパンの予告状を受け取り、一読すると胸ポケットに納めた。
「こちらの読み通り、ルパンは宝石展を狙うつもりだ。そこで彼を捕まえるとしよう」