ロンドンの霧(仮)

翌日。

既に夜は明けていたが、ホームズはまだベッドの上で膝を抱えていた。

今日はアイリーンとロージーホールを訪れる予定だった。

ワトソンには兄に会うとだけ伝えてある。

事件を早く解決して、兄に認めてもらいたい。

けれど捜査には出たくない。

相反する二つの気持ちに挟まれ、ホームズは膝に顔を埋めた。

ノックの音がして、新聞を片手にワトソンが入ってきた。

「珍しく寝坊か?」

「ワトソンさん……」

ワトソンは窓を開けて空気を入れ替えると、ベッドサイドに寄ってホームズの顔を覗き込んだ。

「今日もディオゲネスにいくんだろう? 昨日マイクロフトに頼んだ調査の結果を聞きに」

ホームズは黙っていた。

「待たせると怒るぞ。あの男は時間にはうるさいからな」

「あの……」

「ん?」

「今日はその……山羊座は運勢が悪いみたいで……」

「ほう」ワトソンはジロリと彼女を見た。

「運勢が悪いからマイクロフトに会うのは止める、と?」

言い訳の続きを待たずに、ワトソンは手にした新聞紙を素早く丸めてホームズの後頭部をスパンとはたいた。

「痛い……!」

ホームズは両手で頭を押さえた。

「ったく……」ワトソンは呆れたように言うと、くるりと背を向けた。

「いいさ。じゃあ俺が代わりに行って、お前の可愛い妹は会いたくないそうだと伝えておいてやる」

「やっ……! ま、待って下さいワトソンさん!」

ワトソンがアイリーンと鉢合わせしたら、とんでもないことになる。発砲事件になりかねない。

ホームズは慌ててベッドから飛び出したが、ナイトシャツの裾を踏みつけてそのまま床に倒れ込んだ。

「ふみゃっ!」

振り返ったワトソンは、うつ伏せに倒れたままの彼女を見て吹き出しそうになった。

「裾上げした方が良いんじゃないか?」

「……っ!」

ホームズはガバッと立ち上がり、ワトソンに向かって叫んだ。

「あのっ、私、行きますから! すぐ仕度します!」

そして、ワトソンを押し出すように部屋から追い出し、バタバタと着替えを始めた。
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