ロンドンの霧(仮)
「魔法、使い……?」
グレグスンは訳がわからないといった顔でレストレイドを見た。
「そのうち分かるわ」
レストレイドは意味ありげな笑みを浮かべる。
グレグスンは視線をホームズに戻した。
ホームズは光の消えた魔方陣から外へ踏み出し、指先でそっと被害者に触れた。
しばらくすると、赤く染まっていた瞳の色が元に戻る。それを確認したワトソンは魔方陣を足で崩して消した。
ホームズは舞台からおりてレストレイドに近寄っていった。
「あ、あの……」
モジモジしているホームズを見て、レストレイドは穏やかな微笑みを浮かべて声をかける。
「お早う、ホームズ」
「お、お早うございます」消え入りそうな声で挨拶が返ってきた。
レストレードは彼女の意図を汲んで、先回りして言った。
「私に何か訊きたい?」
ホームズはホッとした顔をして話し始めた。
「あの、首の傷なんですけど……」
「気付いているわ。ヴァンパイアの噛み痕ね」
レストレイドの言葉に、ホームズは頷いた。
「今『調べた』ところ、噛み痕もあるし、体中の血液が抜き取られているところからもヴァンパイア族の犯行に思えます」
「血が抜き取られているの?」
レストレイドの言葉に、ホームズは頷いた。
「やっぱりヴァンパイアだ! 我々も噛み痕から奴等の仕業だと思ったんですよ。ねぇ、警部?」
グレグスンが言った。レストレイドは片手を上げて彼を黙らせ、ホームズを見た。
「『思える』って言ったわね?」
ホームズは頷いた。
「調べるついでに、魔族の痕跡を見たんです」
「痕跡……?」
グレグスンが首を傾げる。ワトソンが口を開いた。
「ルミノール反応ってあるだろ? 血液は拭き取られていても痕跡を調べられる。あれと同じだ。魔法で魔族の痕跡を調べられる」
「あの死体には、魔族の反応はありませんでした」ホームズは言った。
「勿論、絶対ではありません。前にも警部に言った事ありますが……」
「覚えてるわ。貴女のコンディションも影響するし、高等な魔族は痕跡を残さない……アイリーンみたいな、ね?」
アイリーンの名前を聞いたホームズがわずかに体をこわばらせたのを、ワトソンは見逃さなかった。
口を挟もうとしたワトソンだったが、それより先にグレグスンが尋ねた。
「犯人の足取りを追う、みたいな魔法はないんですか? 残留思念から犯人を読み取るとか」
「小説じゃないんだぞ、グレグスン」ワトソンが言った。
「魔法は万能じゃない。ホームズ曰く、種も仕掛けもある。アーサー王伝説のマーリンみたいのを想像してたんなら、お生憎様だな」
グレグスンはまじまじとホームズを見つめた。
人形のように愛らしい容姿からは想像できない、とんでもない能力を持っている。
「……あなたは、人間なんですよね?」
グレグスンの視線に、わずかな警戒が混じった。
ホームズは微動だにせず、その視線を受け止めている。
「グレグスン」
レストレードが咎めるような声をあげた。
「分かってないようだな、グレグスン君」
ワトソンは笑ってグレグスンの前に出た。
「人間だって特異な能力を持つ奴もいる。ソフィなんか、頭に角が生えるぞ」
「ジョン!」
「……スミマセン」
素直に謝りながらも、『ほら、な?』と言いたげな目をしてグレグスンを見る。
グレグスンは苦笑して小さく頷いた。
レストレードはじっと黙り込んでいるホームズを見つめた。
いつもは視線を感じるとすぐにワトソンの背中へ隠れるホームズが、何かを考え込んでいる様子で、微動だにしない。
レストレードはワトソンに視線を送った。
「結局、新たに分かった事実は血が抜き取られていたって事だけか?」
ワトソンが尋ねても、ホームズは答えない。
「おい、ホームズ」
彼女は猶も考え込んでいる。誰の声も耳に入ってはいなかった。
ワトソンはおもむろにホームズの耳を引っ張った。
「人の話はちゃんと聞け!」
「あの、私、先に外で待ってますね」
ホームズはレストレイド達にお辞儀をするなり、ホールから走り去った。
「聞いてねぇ……」
ワトソンは眉根を寄せた。
レストレイドは走り去るホームズの背中を目で追いながら、ワトソンの肩に手を置いた。
「珍しいわね、あの子があなたから離れるなんて。あの頃より少しは良くなったのかしら?」
「いや。今朝も出るのを渋ったんだが」
ワトソンも困惑気味だ。
レストレイドは小さくため息をついた。
「悪かったわ。私がアイリーンの名前を出したりしたからよね」
「いや、気にするな。何か思い付いた事があるんだろう」
ワトソンはレストレイドの背中を軽く叩くと、ゆっくりホームズのあとを追った。
グレグスンは訳がわからないといった顔でレストレイドを見た。
「そのうち分かるわ」
レストレイドは意味ありげな笑みを浮かべる。
グレグスンは視線をホームズに戻した。
ホームズは光の消えた魔方陣から外へ踏み出し、指先でそっと被害者に触れた。
しばらくすると、赤く染まっていた瞳の色が元に戻る。それを確認したワトソンは魔方陣を足で崩して消した。
ホームズは舞台からおりてレストレイドに近寄っていった。
「あ、あの……」
モジモジしているホームズを見て、レストレイドは穏やかな微笑みを浮かべて声をかける。
「お早う、ホームズ」
「お、お早うございます」消え入りそうな声で挨拶が返ってきた。
レストレードは彼女の意図を汲んで、先回りして言った。
「私に何か訊きたい?」
ホームズはホッとした顔をして話し始めた。
「あの、首の傷なんですけど……」
「気付いているわ。ヴァンパイアの噛み痕ね」
レストレイドの言葉に、ホームズは頷いた。
「今『調べた』ところ、噛み痕もあるし、体中の血液が抜き取られているところからもヴァンパイア族の犯行に思えます」
「血が抜き取られているの?」
レストレイドの言葉に、ホームズは頷いた。
「やっぱりヴァンパイアだ! 我々も噛み痕から奴等の仕業だと思ったんですよ。ねぇ、警部?」
グレグスンが言った。レストレイドは片手を上げて彼を黙らせ、ホームズを見た。
「『思える』って言ったわね?」
ホームズは頷いた。
「調べるついでに、魔族の痕跡を見たんです」
「痕跡……?」
グレグスンが首を傾げる。ワトソンが口を開いた。
「ルミノール反応ってあるだろ? 血液は拭き取られていても痕跡を調べられる。あれと同じだ。魔法で魔族の痕跡を調べられる」
「あの死体には、魔族の反応はありませんでした」ホームズは言った。
「勿論、絶対ではありません。前にも警部に言った事ありますが……」
「覚えてるわ。貴女のコンディションも影響するし、高等な魔族は痕跡を残さない……アイリーンみたいな、ね?」
アイリーンの名前を聞いたホームズがわずかに体をこわばらせたのを、ワトソンは見逃さなかった。
口を挟もうとしたワトソンだったが、それより先にグレグスンが尋ねた。
「犯人の足取りを追う、みたいな魔法はないんですか? 残留思念から犯人を読み取るとか」
「小説じゃないんだぞ、グレグスン」ワトソンが言った。
「魔法は万能じゃない。ホームズ曰く、種も仕掛けもある。アーサー王伝説のマーリンみたいのを想像してたんなら、お生憎様だな」
グレグスンはまじまじとホームズを見つめた。
人形のように愛らしい容姿からは想像できない、とんでもない能力を持っている。
「……あなたは、人間なんですよね?」
グレグスンの視線に、わずかな警戒が混じった。
ホームズは微動だにせず、その視線を受け止めている。
「グレグスン」
レストレードが咎めるような声をあげた。
「分かってないようだな、グレグスン君」
ワトソンは笑ってグレグスンの前に出た。
「人間だって特異な能力を持つ奴もいる。ソフィなんか、頭に角が生えるぞ」
「ジョン!」
「……スミマセン」
素直に謝りながらも、『ほら、な?』と言いたげな目をしてグレグスンを見る。
グレグスンは苦笑して小さく頷いた。
レストレードはじっと黙り込んでいるホームズを見つめた。
いつもは視線を感じるとすぐにワトソンの背中へ隠れるホームズが、何かを考え込んでいる様子で、微動だにしない。
レストレードはワトソンに視線を送った。
「結局、新たに分かった事実は血が抜き取られていたって事だけか?」
ワトソンが尋ねても、ホームズは答えない。
「おい、ホームズ」
彼女は猶も考え込んでいる。誰の声も耳に入ってはいなかった。
ワトソンはおもむろにホームズの耳を引っ張った。
「人の話はちゃんと聞け!」
「あの、私、先に外で待ってますね」
ホームズはレストレイド達にお辞儀をするなり、ホールから走り去った。
「聞いてねぇ……」
ワトソンは眉根を寄せた。
レストレイドは走り去るホームズの背中を目で追いながら、ワトソンの肩に手を置いた。
「珍しいわね、あの子があなたから離れるなんて。あの頃より少しは良くなったのかしら?」
「いや。今朝も出るのを渋ったんだが」
ワトソンも困惑気味だ。
レストレイドは小さくため息をついた。
「悪かったわ。私がアイリーンの名前を出したりしたからよね」
「いや、気にするな。何か思い付いた事があるんだろう」
ワトソンはレストレイドの背中を軽く叩くと、ゆっくりホームズのあとを追った。