嵐を呼ぶレディ
Nawe Change
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「それで、あの試合で得た物がこれ?」
綾はやや呆れながら、誰に言うともなく呟いた。
帆船にはヤードからマスト材と円材、それに帆布2巻が積み込まれ、積み込みが済むと同時に帆船は港を離れた。宇宙空間へ出るためには、沖合の広い場所が必要なのだ。
ケビンが仮置きされた場所から、納品をチェックしながら、倉庫への積み込みを指示している。
「これといって特別な物はないじゃない。何であんなにムキになって試合してたんだろ……」
「納得できないって顔だな」
ケビンが書類に何やら書き込みながら綾に向って言った。
「だって。賭けてるって言うから何かなって楽しみにしてたら、帆布なんだもん」
ケビンは笑った。笑いながら、積み込み方がおかしいと作業員に厳しく文句を言った。
「品物を受け取る順番を賭けたんだ」
「順番?」
「あぁ。ヤードはケチな上に処理が遅い。普通なら俺たちの船が注文品を受け取るのは1か月半か2ヶ月は先だっただろうな。それを、他の船の連中と試合をして、順番を変わってもらったんだ。おかげでこっちはいつもより3か月は早く出帆できた」
綾は怪訝そうにケビンを振り仰いだ。
「何か早く出帆しなきゃならない理由でもあるの?」
「うーん、それは……あっ、バカ者、そいつを濡らすなよ! 気をつけて運べ! ……それはリョウ、俺からは何とも言えないな」
「どういう事? 作戦は極秘事項だから言えないって事?」
「いや、そうじゃないけど……おい、そいつは何だ? 不良品じゃないのか? ちょっと見せてみろ……」
ケビンは言葉をにごし、仕事に戻って行った。
綾は不満そうな表情でその場を離れ、自室に引き上げようとギャングウェーを歩きだした。
「一体、何を隠してるのかな……」
「何を隠してるって?」
真後ろから声が降ってきた。綾が振り返ると、真後ろに大きな荷物を抱えたフェイスがいた。
「おいリョウ、どっちかに寄ってくれ、通れねぇよ」
「あっ、ゴメン」
綾はガンネル側に寄ってフェイスを通し、自分はその後から付いて行った。
「で、何を隠してるって?」フェイスが尋ねた。
「うん、賭け野球をしてまで出帆を早めた理由をね。ケビンったら、自分の口からは言えないって、教えてくれなかったの」
「そりゃ言えねーって、金髪さんがエティエンヌ嬢の……」
「こんな所で油を売るとは、いい御身分だなミスタ・エドキンス」
口を開けたまま、フェイスが凍りついた。みるみるうちに顔が青ざめていく。
綾のすぐ真後ろに、シルバーが腕組みをして立っていた。
綾は素早く耳をふさいだ。
「さっさと行け、このバカ者―!」
シルバーのどなり声を背中に浴びながら、フェイスはすごいスピードで走って行った。
綾はコロコロと笑ってフェイスを見送った。
「で、俺が何だって?」
シルバーが綾を見下ろした。綾はすました顔であさっての方を見ると、両手を後ろで組んで言った。
「さぁて、ドクターの手伝いに行こうっと……」
「逃がすかバカ者」シルバーは笑って、まるで子猫でも捕まえるように綾の襟首をつかんだ。
その時、トップから声が上がった。
「おーい、アッパー・デッキ! 横方二点に帆船!」
ジタバタしていた綾は動きを止めた。
シルバーは綾を放り出してデッキに走っていく。綾も慌てて後を追った。
途中でキースが追い抜いて行った。
「まだかなり遠いですが……手信号旗があがってます! 味方のようです!」
トップからの声に、シルバーが言った。
「連絡文書か何かを届けに来たんだろう……旗は何と言ってる、リチャーズ?」
リチャーズは信号係になってまだ日が浅い。今も必死になって望遠鏡と虎の巻と呼ばれている暗号表を交互に眺めている。
「レディ・フローラ・エティエンヌを……お連れしています。貴艦への乗艦を……ねが、願い……」
シルバーの顔色が曇った。慌ててキースを振り返り、その後方にスケイディの姿を認めると、直接スケイディに叫んだ。
「スケイディ! 下手回し! 船が見えなくなったら縮帆だ!」
「は……?」裏帆を打たせて停泊、の命令を待っていたスケイディが、驚いた顔でシルバーを見上げた。
「二度は言わん! 早くしろ!」
シルバーのどなり声に、スケイディは慌てて呼子を鳴らしながら後方へ走って行った。彼の大声が次第に遠ざかっていく。
「逃げるんですか、シルバー?」
キースがぼそっと言った。
「逃げるんじゃない。こちらが準備を整えるまでの時間稼ぎだ」シルバーはデイキャビンへと戻りかけて言った。
「リョウを寄こしてくれ」
綾は横方二点にあった船が何だったかを聞く暇も与えられず、キースに連れられてデイキャビンへ行った。
デスクには深刻な顔つきのシルバーが座っている。
「リョウを連れてきました」
「リョウ、極秘任務だ」シルバーが言った。
「任務……? 看護助手の私にですか?」
「いや、看護助手はこの際関係ない。今必要とされているのはお前さん自身だ」
「どういう事ですか……?」
まっすぐに相手の目を見て聞き返す綾に、シルバーは少しためらった様子を見せたが、すぐに毅然とした表情に戻った。
「私の恋人になってもらいたい」
綾はきょとんとした表情でキースを振り返った。キースは素早く彼女にささやいた。
「大丈夫、聞き間違いじゃない」
綾は一瞬考えた後、シルバーに向き直って口を開いた。
「それは……新手の冗談か何かですか」
「いいや」シルバーはデスクに両腕をのせて身を乗り出し、楽しそうににっこり笑った。
「君を口説いてるんだ」
「…………」
綾は困惑して再度キースを振り返った。
「あぁ。安心しろ、聞き間違いじゃない」
沈黙が流れた。外からスケイディのどなり声が聞こえてくる。
「風下バントライン引け! はやく引くんだ、こののろまどもー!」
「おいフォクスル、ぼやっとすんな! そこのシートとブレース……! 」
キースが聞き耳をたて、ぼそっと言った。
「どうやらうまく撒いたみたいですね」
「あぁ。向こうさんがこちらの船を見失っていることを祈るね」
綾は焦れて叫んだ。
「いい加減、どういう事なのかちゃんと説明して下さい! あの船と恋人と……一体何がどうなってるんですか⁉」
「フローラ・エティエンヌ嬢に、君が私の恋人だと思わせたいのだよ」
「ミスタ・リチャーズが言ってた、あの船に乗っておられる女性……ですか?」
シルバーが頷いた。
「海軍本部におられるエティエンヌ卿のお嬢さんでね、むげにはできないんだが……しかし、私にはその気がない」
「つまり手っ取り早く言うと、彼女が言いよってくるのを断りたいが自分からは率直に断れないから、まわりくどいけどすでに恋人がいるふりをして諦めさせよう……ってことですか」
「ほんと、まわりくどいですね」キースが頷いたのを、シルバーがじろりと睨んだ。
「副長、今君の意見は聞いていないが」
「失礼しました、船長」
シルバーは視線を綾に移した。その視線に、綾は心ならずもドキリとして俯く。シルバーは満足そうに微笑んで言った。
「さあ、芝居の準備だ。さっきの船が再びやってくるまでに仕上げないとな」
綾はやや呆れながら、誰に言うともなく呟いた。
帆船にはヤードからマスト材と円材、それに帆布2巻が積み込まれ、積み込みが済むと同時に帆船は港を離れた。宇宙空間へ出るためには、沖合の広い場所が必要なのだ。
ケビンが仮置きされた場所から、納品をチェックしながら、倉庫への積み込みを指示している。
「これといって特別な物はないじゃない。何であんなにムキになって試合してたんだろ……」
「納得できないって顔だな」
ケビンが書類に何やら書き込みながら綾に向って言った。
「だって。賭けてるって言うから何かなって楽しみにしてたら、帆布なんだもん」
ケビンは笑った。笑いながら、積み込み方がおかしいと作業員に厳しく文句を言った。
「品物を受け取る順番を賭けたんだ」
「順番?」
「あぁ。ヤードはケチな上に処理が遅い。普通なら俺たちの船が注文品を受け取るのは1か月半か2ヶ月は先だっただろうな。それを、他の船の連中と試合をして、順番を変わってもらったんだ。おかげでこっちはいつもより3か月は早く出帆できた」
綾は怪訝そうにケビンを振り仰いだ。
「何か早く出帆しなきゃならない理由でもあるの?」
「うーん、それは……あっ、バカ者、そいつを濡らすなよ! 気をつけて運べ! ……それはリョウ、俺からは何とも言えないな」
「どういう事? 作戦は極秘事項だから言えないって事?」
「いや、そうじゃないけど……おい、そいつは何だ? 不良品じゃないのか? ちょっと見せてみろ……」
ケビンは言葉をにごし、仕事に戻って行った。
綾は不満そうな表情でその場を離れ、自室に引き上げようとギャングウェーを歩きだした。
「一体、何を隠してるのかな……」
「何を隠してるって?」
真後ろから声が降ってきた。綾が振り返ると、真後ろに大きな荷物を抱えたフェイスがいた。
「おいリョウ、どっちかに寄ってくれ、通れねぇよ」
「あっ、ゴメン」
綾はガンネル側に寄ってフェイスを通し、自分はその後から付いて行った。
「で、何を隠してるって?」フェイスが尋ねた。
「うん、賭け野球をしてまで出帆を早めた理由をね。ケビンったら、自分の口からは言えないって、教えてくれなかったの」
「そりゃ言えねーって、金髪さんがエティエンヌ嬢の……」
「こんな所で油を売るとは、いい御身分だなミスタ・エドキンス」
口を開けたまま、フェイスが凍りついた。みるみるうちに顔が青ざめていく。
綾のすぐ真後ろに、シルバーが腕組みをして立っていた。
綾は素早く耳をふさいだ。
「さっさと行け、このバカ者―!」
シルバーのどなり声を背中に浴びながら、フェイスはすごいスピードで走って行った。
綾はコロコロと笑ってフェイスを見送った。
「で、俺が何だって?」
シルバーが綾を見下ろした。綾はすました顔であさっての方を見ると、両手を後ろで組んで言った。
「さぁて、ドクターの手伝いに行こうっと……」
「逃がすかバカ者」シルバーは笑って、まるで子猫でも捕まえるように綾の襟首をつかんだ。
その時、トップから声が上がった。
「おーい、アッパー・デッキ! 横方二点に帆船!」
ジタバタしていた綾は動きを止めた。
シルバーは綾を放り出してデッキに走っていく。綾も慌てて後を追った。
途中でキースが追い抜いて行った。
「まだかなり遠いですが……手信号旗があがってます! 味方のようです!」
トップからの声に、シルバーが言った。
「連絡文書か何かを届けに来たんだろう……旗は何と言ってる、リチャーズ?」
リチャーズは信号係になってまだ日が浅い。今も必死になって望遠鏡と虎の巻と呼ばれている暗号表を交互に眺めている。
「レディ・フローラ・エティエンヌを……お連れしています。貴艦への乗艦を……ねが、願い……」
シルバーの顔色が曇った。慌ててキースを振り返り、その後方にスケイディの姿を認めると、直接スケイディに叫んだ。
「スケイディ! 下手回し! 船が見えなくなったら縮帆だ!」
「は……?」裏帆を打たせて停泊、の命令を待っていたスケイディが、驚いた顔でシルバーを見上げた。
「二度は言わん! 早くしろ!」
シルバーのどなり声に、スケイディは慌てて呼子を鳴らしながら後方へ走って行った。彼の大声が次第に遠ざかっていく。
「逃げるんですか、シルバー?」
キースがぼそっと言った。
「逃げるんじゃない。こちらが準備を整えるまでの時間稼ぎだ」シルバーはデイキャビンへと戻りかけて言った。
「リョウを寄こしてくれ」
綾は横方二点にあった船が何だったかを聞く暇も与えられず、キースに連れられてデイキャビンへ行った。
デスクには深刻な顔つきのシルバーが座っている。
「リョウを連れてきました」
「リョウ、極秘任務だ」シルバーが言った。
「任務……? 看護助手の私にですか?」
「いや、看護助手はこの際関係ない。今必要とされているのはお前さん自身だ」
「どういう事ですか……?」
まっすぐに相手の目を見て聞き返す綾に、シルバーは少しためらった様子を見せたが、すぐに毅然とした表情に戻った。
「私の恋人になってもらいたい」
綾はきょとんとした表情でキースを振り返った。キースは素早く彼女にささやいた。
「大丈夫、聞き間違いじゃない」
綾は一瞬考えた後、シルバーに向き直って口を開いた。
「それは……新手の冗談か何かですか」
「いいや」シルバーはデスクに両腕をのせて身を乗り出し、楽しそうににっこり笑った。
「君を口説いてるんだ」
「…………」
綾は困惑して再度キースを振り返った。
「あぁ。安心しろ、聞き間違いじゃない」
沈黙が流れた。外からスケイディのどなり声が聞こえてくる。
「風下バントライン引け! はやく引くんだ、こののろまどもー!」
「おいフォクスル、ぼやっとすんな! そこのシートとブレース……! 」
キースが聞き耳をたて、ぼそっと言った。
「どうやらうまく撒いたみたいですね」
「あぁ。向こうさんがこちらの船を見失っていることを祈るね」
綾は焦れて叫んだ。
「いい加減、どういう事なのかちゃんと説明して下さい! あの船と恋人と……一体何がどうなってるんですか⁉」
「フローラ・エティエンヌ嬢に、君が私の恋人だと思わせたいのだよ」
「ミスタ・リチャーズが言ってた、あの船に乗っておられる女性……ですか?」
シルバーが頷いた。
「海軍本部におられるエティエンヌ卿のお嬢さんでね、むげにはできないんだが……しかし、私にはその気がない」
「つまり手っ取り早く言うと、彼女が言いよってくるのを断りたいが自分からは率直に断れないから、まわりくどいけどすでに恋人がいるふりをして諦めさせよう……ってことですか」
「ほんと、まわりくどいですね」キースが頷いたのを、シルバーがじろりと睨んだ。
「副長、今君の意見は聞いていないが」
「失礼しました、船長」
シルバーは視線を綾に移した。その視線に、綾は心ならずもドキリとして俯く。シルバーは満足そうに微笑んで言った。
「さあ、芝居の準備だ。さっきの船が再びやってくるまでに仕上げないとな」